５ 〜S〜 ページ5
「それでは今日はこのあたりでお終いに致しましょうね。」
今日、用意された花を一通り刺し終えて鋏を置いた。
「みなさんの美しさに負けず劣らずの作品に仕上がってます。みなさん初めてなのに優秀でいらっしゃる。」
花の匂いと草木特有の青臭い香りが畳の部屋に充満していて…
その部屋の中に5人の着物を着た女性達。
その女性達は全員がそれなりの良家の子女で、所謂、年頃の女性だ。
その女性達ににっこりと笑いかけると、ポッと頬を染める。
「ではみなさん、また次回お会いしましょうね。お疲れ様でした。」
正座で居住まいを正し、畳に手をつき挨拶をしてから部屋を出た。
「はぁ…噂通り本当に素敵ね？若様…。」
「あのお優しい笑顔が…。」
「お着物がよくお似合いで…。」
女性達のそんな声を背後で聞きながら玄関に向かい数歩歩くと、
「若、お疲れ様です。」
サッと俺の背後についたのは俺の付き人の松本潤。
「うん。お疲れ。」
潤に笑顔で労いの言葉をかけて。
「お疲れの所、申し訳ありませんが本家に顔を出すようにと旦那様が。」
「…。」
無言の俺に草履を差し出し、それに足を通して外に出た。
潤が玄関の目の前に停められた黒塗りの車の後部座席のドアを開き乗り込むと、ドアを閉めた潤が助手席に回り自分も乗り込んだ。
「出せ。」
潤が運転手にそう告げると、流れる様に滑り出した車。
無音の車内は誰が話すわけでもなくて、しばらく外の喧騒だけが聞こえてたけど…
「つーか潤！全員ブスすぎんだろ？！お前、今回大丈夫だって言ったじゃねぇか！ブスに用はねぇんだよ。あんな女じゃ勃ちもしねぇ！」
タバコを咥えながら助手席を蹴りつける。
「若！お気持ちは察しますがこの場では『うるせぇ。俺に指図すんな！』」
いつからお前はそんな偉くなったんだよ！
「しかもブスの相手で疲れてる俺にこの後、親父に会えだと？！てめぇふざけてんのか？」
「旦那様のご命令は絶対です。」
「うるせぇ！行けねぇって伝えろ！」
一発じゃ飽き足らず、助手席を蹴りまくる。
「若！落ち着いてください！」
この間も蹴りまくり壊れて直したばかりのシートに座る潤は俺に振り返り…
「若様！今日は若様好みの女性をホテルにご用意致します。もちろん旦那様にも内緒に致しますのでどうぞ落ち着いてください。」
その言葉にピタリと蹴るのをやめて、吸わずにボロボロになったタバコを隣のシートに投げ捨てた。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2018年4月16日 15時
