２９ 〜S〜 ページ29
二宮邸に着き、潤が車から降りてAを迎えに行った。
名前を教えてもらってから勝手に『A』と自分の中では呼んでいるものの…
許可を得るべきかどうか…
後で聞いてみよう。
そんな事を考えていると右側のドアが開き視線を向けた。
清楚な白いワンピースに、艶やかな長い黒髪に赤いリボンの髪飾りがついていて…
よく似合っていて…
あまりの可憐さに見惚れた。
「あ、あの…おはようございます。本日はよろしくお願いします。」
Aよりも異性に対する免疫はあるとは思うし、それなりに経験もしてるけど、まるでAの緊張が移ったかの様に落ち着きがなくなり視線を彷徨わせた。
「あ、あぁ。そんな挨拶はいいから早く乗れ。」
気の利いた言葉を言うスキルもなきゃ経験もない俺はそんな言葉しか吐けずに…
潤に睨まれた。
Aが隣に座ると甘い香りが漂ってきて…
「…カサブランカ…。」
「え？」
「カサブランカに似た香り。」
おそらくカサブランカとAの香りが混じってこの匂いなんだろう。
「え？はい…。おそらく香水がそうではないかと…。カサブランカの匂いはお嫌いでしたか？」
「花の匂いが嫌いで華道家してると思うか？」
目も合わせずにそう言うと、
「…そうですね…。」
声を震わせて言うから、さすがにヤバイと思ってAの方に顔を向けた。
俯き、唇をキュッと噛み締めてるAが視界に入り…
「お、おい！違くて『二宮様？若には悪気はないのです。あまり二宮様がお綺麗で緊張してるのです。どうぞお許しください』」
潤の言葉で顔を上げて『はい』と小さな声で返事をした。
そんなAを確認すると潤は車を発進させた。
無言の車内でチラチラと何度もAを確認するけど、不安そうな表情に変わりなくて…
どうするべきか考えて…
口下手な俺はフォローのつもりでも何かを言えば言うほどに悪い方向に行きそうで…
そっと手を伸ばして、膝の上に乗せたバックを握ってる手に上から自分のを重ねた。
「っ！」
案の定、大袈裟に身体をビクリとさせたAが目を見開きこちらを見てる。
そのまま視線をズラす事なく俺も見つめ返していると、徐々に力が抜けていくのがわかって…
Aの手のひらの下に合わせるように自分のを入れて、ギュッと握った。
されるがままのAだったけど、遠慮がちに指をたたんで握り返してくれた。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2018年4月16日 15時
