蝶よ華よ… (ページ26)

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櫻井さんが帰った後の私の部屋は微妙な空気が流れていて、不機嫌そのものの和くんは一言も発さずに冷たい雰囲気を纏ったまま出て行った。

和くんに怒られた事も、あんなに冷たい和くんを見た事もないから、どうしようと戸惑ったけど…

慌てて追いかけようとした私を止めたのは智くんで。

「追いかけちゃダメだよ。兄離れ、妹離れするいい機会だ。」

「…でも…和くん怒ってる。」

「怒ってるわけじゃないよ。自分の大事にしてた宝物をついに取り上げられて拗ねてるだけだよ。」

全てをわかってる智くんは優しく頭を撫でてくれる。

「彼…口と態度は悪いし、世間知らずな御曹司っぽいけど…Aちゃんの好みみたいだし大丈夫でしょ？調べたけどつまみ食いだけで叩いて出る埃はなさそうだから。」

ふにゃりとした笑みは、やっぱり全てを見透かしてるようで…。

「ち、ちがっ！違うの！」

「そうなの？」

「そう！夢のね？王子様で…あ！違う！違うの！！」

慌ててる私をクスリと笑って、

「可愛いなぁ。」

って、和くんと同じような柔らかい目で私を見てる。

この目が和くんと同じだって気づいたから、智くんは私を妹とでしか見てないんだって思ったんだっけ…。

「夢に出てきたの？彼。」

「…うん…。会う前なのにそっくりな人が何回か…。」

あんな乱暴な態度と言葉使いではなかったから別人なのかもしれないけど、顔と背格好はまったく彼そのものだった。

「そりゃ運命かもね？」

「…そ…かな？」

「うん。俺はそう思うよ。夢に出るなんて予知夢だったのかな？実際どうだったの？二人きりになって。」

「…ドキドキした…。」

「ふふふ。そっかそっか。外見は憧れで理想の王子様だったんだしね。」

納得したように数度頷き、頭を撫でられた。

「Aちゃんが誰かの物になる…そう考えると俺も少し寂しいから和也の気持ちもわかるんだ。」

「…。」

「でもずっとこのままでいいわけじゃない。それを和也も本当はわかってるんだ。」

「…うん…。」

「まぁね？彼とこの先どうなるか…なんてわからないし…。そんなに身構えずに、変わる為のきっかけだと思って普通の女の子みたいに気軽に恋愛楽しみな。ね？」

「…ん。」

頷いた私の頭をポンポンとして『おやすみ』って耳元で囁いて部屋を出て行った…。