１１ 〜S〜 ページ11
松本を従えて踏み入れた親父の待つ座敷。
５０畳はある、だだっ広い座敷の上座に座る親父の前に向かって歩みを進め…
正面から対峙すると、『座れ』と低い声で一言。
素直にその場に正座で座ると、松本は俺の斜め後ろに座る。
どんな事があろうと畳の上では正座というのは、幼い頃に刷り込まれた習慣。
「何だよ。呼び出して。」
大体は言われる事を予測できてるけど聞いてやろう。
「今日の出稽古のお嬢様方はどうだった？」
「良家の子女だけあって、今更教室通うまでもねぇってくらいのレベルだったわ。」
「若様。家元の前です。言葉使いにはお気をつけくださいと何度も申し上げております。」
松本の小言はいつもうるさい。
「仕事に関わる事ならそうするが、あいにく今は親子の会話なんでね。」
顔を松本に向けたまま横目で親父を見ると、目が合った親父は松本に目配せをした。
「翔。」
「…んだよ。」
「今日のお嬢様方は皆、選りすぐった方ばかり…。」
「選りすぐったわりには全員ブサイク。あれじゃ抱く気も起きねぇ。つーか勃たねぇから抱けねぇんだけど。」
ケラケラ笑いながら言うと親父の眉間に皺が寄る。
「何だよ。孫欲しいんだろ？なら俺が抱く気が起きる女を連れて来いよ。ヤんねぇとガキだってできねぇだろうが。」
連れて来られても結婚なんて、さらする気ねぇんだけど。
これ以上は無駄だと立ち上がった。
「翔。待ちなさい。」
「嫌だね。」
聞く耳持たない俺にもう諦めてくれればいいのに。
身を翻し、親父に背を向け歩き出した俺の背後から、
「…わかった。」
って声が聞こえて。
「そ？わかってくれればいい。」
早くこんな所から脱出して、猫耳付けたみるくちゃんと泡風呂でにゃんにゃん…
「お前が納得する女性を探す。」
「は？」
親父にパッと振り返る。
「あんまり父親をなめんなよ？」
ニヤリとした笑みが気持ち悪い…。
「さ、探せるもんなら探してみろよ！それに俺の好みなんて親父がわかるのか？」
「わかるさ？親子だぞ？」
「…。」
「翔ちゃんはママ大好きなマザコンだもんね？」
「おい！ちげぇよ！」
「って事は俺と趣味が一緒って事だ。」
おい…
どうしてそうなる…？
しかも男なんてもんは、少なからずマザコンだろ？
つーかお前…
その短絡思考といやらしい顔つき…
とても一流流派の家元には見えねぇよ…。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2018年4月16日 15時
