【wrwrd！】無能の妹が幹部に溺愛されている件

妹、遂行する ページ26

日の出の少し前、まだ薄暗い外を眺めながら息をつく。机に置かれたまとめられた小さな荷物を眺めながらAは物思いにふけっていた。すると、タイミングを見計らったかのように与えられた私室の扉がノックされる。扉に向かって返事をすると少し間を開けてそっと扉が開かれた。
すると、普段の緑パーカーではなく、黒のミリタリージャケットにグレーのパンツをはいたゾムが立っていた。彼の普段の格好ではあまりにも有名なため、国を渡る際に警戒されてしまう可能性が高いのであえて任務までは着用しないようにしているらしい。窓からこぼれる薄明かりはフードをかぶっていないキャメル色の髪を照らし、その下にある翡翠の瞳を光らせていた。


「準備できたか？」
『お待たせしてしまいましたか、すみません。』
「別にええけど、その顔…やっぱりできないとかなら俺だけで行ってくるけど、どうする？」
『大丈夫です。他でもないグルッペン総統の望みなので。』
「……そっか、じゃあ行くで。」


何か言いたげだったゾムはくしゃりとAの頭を撫でてからそのまま踵を返し、振り返らずに部屋を出た。聞かれたくない事だとすぐに察したのか、それ以上は何も言わないゾムの背中に感謝しながら、彼女もそれを習うようにしてついて歩くように後を追った。どことなく浮かない顔のAを横目に、まず我々国の国境までと城門を出て国境へと向かって行った。


「行ってしまったな。」
「行かせたのはグルさんやろ。」
「そうなんだが、アイツらに関しては特に心配していない…それより、いつまでそこで落ち込んでいるつもりだ？」
「はぁ…こうさせたのもグルさんやろ。」


総統室から城を出て行く二人を見ていたグルッペンが自分の部屋のソファーで横になったまま動かない男を見やる。男は煽るようなグルッペンの言葉にも耳を傾けずに死体ようにじっと横になっている。その様子を見てトントンが大きく溜息をついた。彼の目の下には隈が見て取れて、ここ数日で一気に戦争に向けて忙しくなった軍の仕事が増え、奔走しているのが見て取れる。


「俺の言葉なんかよりよっぽどアイツの言葉が堪えているようだがな。」
「まぁ、こうなる原因は二人にもあるし…俺もいろいろ知ってる分よう言わんけど。大先生、お前にもやってもらわなあかんこと沢山あるんやけどいつまでそうしてるつもりなんですかねぇ？」
「トンちも鬼やん…。」


ソファーに埋もれていた男、鬱が普段より濁った青の瞳をちらりと覗かせた。

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