【wrwrd！】無能の妹が幹部に溺愛されている件

妹、舞踏する2 ページ14

『ふふ、久しぶりにこういうのも楽しいかもしれないですね書記長。』
「……。』
『トントン書記長。』
「……。」
『…トンちゃん。』
「な、なんや」
『さっきからずっと目が合わないんですが。』
「…気のせいじゃないですかねぇ？」


Aは踊り出してからトントンの視線がいっこうに合わないことを気にしていた。合わないどころかこちらを見ようとしない様子に不思議そうに尋ねるとすこし固くなった声でそのまま目の合わないまま答えられる。


『もしかして、楽しくなかったですか？』
「いや、けしてそういうわけでは…。」
『じゃあなんでこっち見てくれないんですか？』
「……黙秘権で。」


尚もくるくる回って、安定したリードの仕方をするトントンに不満があるとすれば目が合わないことで、聞いても尚応えようとしない彼に彼女はむっすりと頬を膨らませていた。
そんな会話が繰り広げられているとはつゆ知らず、会場の1部の人間は二人の優雅な踊りに見惚れて言葉も出ない様子で、翻る黒のドレスとたまにスリットから見える白い足に感嘆の声を漏らしている者も少なくはなかった。


『わあっ』
「おっと、危ない……そこ滑りやすかったんやな、気づかんかった。」
『大丈夫です、それよりも。』
「ん？」
『やっとこっち見てくれましたね？書記長？』
「……お前なぁっ！」


曲が終わった頃、わざと少しつまづくようにしてよろければ、すかさず転ばないようにと支え、立たせてくれる。安否を確認するようにこちらを見てきたトントンをからかうように言えば、顔を赤くして心配したと文句を言っていた。
変わらずニコニコと笑ったAにかなわないと言ったようにやれやれと首をふってから夜風にあたろうと庭の方へと歩き出した。



「見ていたぞお前ら、大方距離が近すぎてトン氏が緊張したんだろう？」
「うっさいですよ、勝手に分析せんでください。」
『あ、総統。逃れて来れたんですね。』
「何とかな……むしろ俺はまた声をかけられる前に早々にここから退散したい。」
「オスマンは？」
「あー、奴ももうこちらへ来るはずなんだが。」
「そしたら中庭で待ってますか。そしたら帰れるやろ。」
「これだからお前童貞とか言われるんだぞ。」


中庭への出入口にさしかかった所でご令嬢を振り切ったらしいグルッペンがニヤニヤと笑いながら近づいてきた。眉を寄せた素っ気ないトントンの態度に更にクツクツと笑ったグルッペンは、Aの手をとって後へと続いた。

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