コード・ブルー：６・責任と苦悩 (ページ7)

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・藍沢side＿＿＿＿＿

胡桃から連絡を受けてすぐに、CSルームから灰谷のモニターを入れ声をかける。

藍沢「灰谷、聞こえるか。モニターを入れた。心マしてる手をどけろ、胸腔内をみる。」

すると灰谷は手を退けた。

藍沢「…大動脈の断裂だ。やれることはない。20代女性の治療と搬送を開始しろ。」

そう伝えてもまだ動く気配のない灰谷。

そんな彼に昔の自分たちが重なった。

俺たちも昔は、一度診た患者を諦めるという行為が理解できなかった。

ただ、現場をこなしていくうちに、助けられる命を救うためにとるべき行動を学んだ。

するとモニターに映る灰谷の手が、再び心マを開始した。

藍沢「灰谷。」

灰谷「でも…中枢側で遮断してヘリで翔北に運べば、まだ…！」

藍沢「…そうだ、ヘリは飛べない。そもそも大動脈断裂じゃ可能性はほとんどない。わかるな。そこに医者は二人しかいない。骨盤骨折の女性も危険な状態だ。」

それでも灰谷は心マをやめない。

すると男性の胸部から大量の血液が流れ出した。

藍沢「大動脈破裂だ。これで可能性はゼロだ。」

動きが止まった灰谷に、酷かもしれないが呼びかける。

藍沢「諦めろ、灰谷。」

するとそこへ治療を終えたのか、胡桃がやって来た声が聞こえる。

胡桃が灰谷に女性とともに翔北へ向かうように指示をすると、静かな声で灰谷が呟いた。

灰谷「この人は…？」

胡桃「…翔北に運んで死亡確認をします。医師は同乗しません。」

そのセリフを今のようにはっきりとした声で言えるようになるまで、彼女は影で一人涙を流し続けた。

若かった頃の俺らは救えなかった命の重みに苦しみ、遺族の悲しみを背負い、そのやり場を知らなかった。

幾度となくもがき苦しんだ上に、俺たちは同じように苦しむお互いを見つけ、ともに乗り越えることを知った。

だがフェローたちはまだ、それを知らない。

そんな彼らの気持ちは痛いほどわかる。

それでも指導医として、同じ苦しみを知る者として、彼らに道を示していってやらなければならない。

外科医を続けるなら、賭けに勝ち続けろ。

かつて恩師から言われた言葉だ。

たった一度の負けが人生を変えてしまうから。

そう教わった。

だが、本当は違う。

医者が負けて、その代償を払うのは、たいていの場合患者だ。

失われるのは患者の人生だ。

医者の人生ではない。