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「俺は」
「…うん」
「何とも思ってないやつのバイト先に迎えとか行かないし」
「うん」
「何も思ってないなら帰りに連れ出したりもしない」
「………」
「だから、その…あー」
言い淀んだ京本。言葉を探すように、えっと、その、と言いながら宙を見つめていた。
「…無理に言わなくてもいいよ」
「別に無理はしてねぇんだけど」
「じゃあ、一言でいいよ。イエスかノーか」
「それは、」
一旦言葉を区切ると、私の顔を真っ直ぐ見たあと、手を握られる。驚いて咄嗟に身を引きそうだった私を、手を掴んでそこにとどめる。
「俺がノーって言ったらノーでいいの、お前は」
「…他人に強要したい気持ちじゃないよ、これは」
「ふは、そっか」
じゃあ、と。くしゃりと笑いながら、目の前の男は言った。
「イエス、でどう？」
「どう？って…疑問形にしちゃダメでしょ、これ」
「でも受け取る権利も受け取らない権利もあるじゃん」
「私から聞いたのに断るなんてことあると思う？」
「はは、そりゃそうか」
握られていた手。するりと彼の長い指が伸びて、いつの間にか指が絡んでいる。
「これでいいの？」
「わかんないよ、初めてだもん」
「俺も俺も。一緒じゃん」
「じゃあ、ふたりで好きなようにしたらいいのかもね」
手のひらを通して伝わる体温が心地よくて。それから、柔らかく笑う彼の顔を見ていたら、緊張の糸が切れたみたいに涙が溢れてくる。
「うわ、ちょ、なに。どしたの」
「だっ…て、だってぇ」
「だってなんだよ」
「っ、だって、昨日の今日、じゃんかぁ」
「そりゃそうだけど」
「展開っ、が…ぅ、早すぎて、ついてけないんだもん、う〜……」
「なんだそりゃ」
これは本当にそうで。突然色んなことが立て続けに起きていて、訳も分からないのだ。たった数日で、ちょっと拗れそうになったり、かき乱されたり、散々だ。
それでも。
しあわせ、なのかな。
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作者名：ちゆき | 作成日時：2023年3月30日 0時
