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「京本」
「………」
「ちょっと、きょうもと、」
まだ顔は見れなくて、後ろから声をかけてみるけれどどれだけ呼んでも返事はなく、ただ手首を掴んでそのまま引かれているだけ。このシチュエーションじゃこの後殴られるとかじゃん。京本に殴られてもそんなに痛くなさそう。慎太郎とかだと超痛そうだけど。
そんなありもしないことに怯えていれば、彼はピタリと足を止めた。いつもお弁当を囲む空き教室。躊躇いなく扉を開けたかと思えば、私のことを引きずり込んで鍵を閉めた。なんで鍵かけたんだ。本当に殴られるのか？
「…あー……えっと」
「な、なに……」
「…や、ごめん。急に連れてきて」
ほんとにな、とは口に出さずに、黙って頷いた。とはいえ盗み見たところ不機嫌な顔は全く直ってない。なんなら語調も機嫌の悪さが滲み出ている。
「…あのさ」
「うん」
「……髪」
「髪？」
なんで結んでないの、今日。
その言葉を理解するまでに時間がかかって、頭がフリーズする。え、髪結んでなかったから機嫌悪かったの？そんなことあるだろうか。
「さ、むかったから…だけど…」
「今日そんなに寒くないじゃん」
「いや寒いよ。じゃなきゃジャージもこんなに着込んでないでしょ」
「………」
納得いかない、という顔。
話の流れで顔を見てふと思った。これ、不機嫌と言うよりは、なんというか、
「…拗ねてる？」
「は？」
お菓子を買ってもらえなかった子供みたいな顔をしているから。と、言ったら彼は怒るだろうか。ぶっきらぼうに、拗ねてねぇし、と零す。それを拗ねてるって言うんだと思うけどな。それが何だか面白くって、思わず笑ってしまった。
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作者名：ちゆき | 作成日時：2023年3月30日 0時
