58.ナレーターの大仕事 ページ19
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『それは天気の良いある日のこと。まだ幼い薫姫は、お城の広い庭で遊んでいました。
家族や執事も一緒にお茶をして、のんびりとした時間を過ごしていたのですが、ふと目を離した隙に、なんと姫はいなくなってしまったのです。城中の使用人を使って探しても、姫はいません。
藁にもすがる思いで、国王夫妻は国で一番と評判の占い師を呼び、姫がどこに居るか占って貰いました。すると占い師は、低い声でこう言ったのです。──姫は、魔王の所に居る、と。
占い師曰く、魔王は深い森の奥にひっそりと住んでおり、いつもは大人しく暮らしているが、たまに人を攫ったり、災いをもたらしたりするらしいのです。
占い師は森にお祓いをすれば帰ってくるかのしれないが、その可能性は低いと言います。
それでもやってみなければわからない、と王は呪術師に森を祓ってもらいました。
すると翌日、姫の部屋のベッドの上で、すやすやと寝ている薫姫が発見されたのです。
国中の人が、姫の無事を喜びました。それからというもの、もう二度と同じ事が起きないようにと姫は城の中だけで過ごしてきたのです。
それなのに、再び姫はいなくなってしまった──。
執事はまず、街を探しました。ずっとお城に居た姫が、様々な人や物が行き交う賑やかなこの場所を見ない訳が無いと思ったのです。
しかし、姫はいませんでした。人々に訊いても、そんな子は見ていないと言います。
困っていた執事はふと、昔のあの出来事を思い出しました。──一か八か。執事は森へと向かいました』
公演の時間は限られている。流石に全ての場面を演じるわけにもいかず、結果姫の過去編はナレーターの台詞がとても長くなってしまった。
台本を書いた如月は大きな負担を掛けてしまったと永彦に申し訳なくなったが、永彦は途中で咳き込むどころか一言も噛まず完璧に読み上げた。二年生で会計という役職に就いているだけあり、流石の仕事ぶりだ。
この長台詞の間に次の場面の準備も余裕を持ってできたので、劇はとても順調に進んでいた。……ここまでは。
*
事件は今回の劇のクライマックス、姫と執事の再開の場面で起こった。
一応それまでの流れを簡単に説明すると、なんとか魔王の城に辿り着いた執事は、魔王の部屋で寝ている姫を見つけ取り戻そうとする、という感じだ。更に言えば、魔王は案外あっさり負けてしまう。(時間が無いから仕方無かったんだよ! by如月)
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こめ(プロフ) - 蒼月さん» コメントありがとうございます!ひええ……勿体無いお言葉ありがとうございます:;(∩´_`∩);:とても展開も更新も遅いのですが、頑張ろうと思います…!! (2017年9月10日 22時) (レス) id: 68f211f4d4 (このIDを非表示/違反報告)
蒼月 - 文章が綺麗でとても読みやすかったです。BL?は初めて読んだのですが、文のおかげで内容に入り込みやすかったです。この作品がとても好きなので、これからも更新頑張ってください!待ってます! (2017年9月10日 21時) (レス) id: 7a41753020 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(プロフ) - カジャさん» いえ、ゴンドラの唄の命短し恋せよ少女を元にしました。 (2017年8月15日 22時) (レス) id: c081f3254b (このIDを非表示/違反報告)
カジャ - 夜は短し歩けよ乙女からタイトルとってますか? (2017年8月15日 17時) (レス) id: 6539cbd64d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/chiy1/
作成日時:2016年11月5日 12時