56.籠の中の鳥は ページ17
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柏木は口が聞けない姫の役なので、殆どの演技がパントマイムだ。
簡単そうに思えるが、身振り手振りだけで感情を表すのは意外と難しい。
柏木も最初は苦戦していたが、会長と臨時講師として呼ばれた演劇部部長の指導によって、何とか発表できるほどの演技ができるようになった。
今も、城の外に出たいと訴えるシーンを、熱演しているところだった。
「いけません! 外には危険が沢山潜んでいるんですよ?」
そんな姫を、執事(会長)が諭す。会長はそんな姫を小さい頃から世話する、執事役だ。
会長の執事姿は、とても様になっていた。衣装合わせで試着をしたときも、その場に居た役員と演劇部員全員が思わず感嘆の声を漏らしたほどだ。
姫は執事の言葉に渋々頷き、大人しく椅子に腰掛けた。執事は少しの間姫の様子を見てから、部屋を出て行った。彼女はその後ろ姿を暫し見つめ、その視線を横にある窓に移した。
『私もこんな広い空の下で、自由に走り回れたら──。薫姫にはいよいよ、我慢の限界が来ていました』
すると、姫は突然椅子の上に登り、窓を開けたかと思うと──外に向かって、思い切り飛び出した。
「……姫さま、おやつをお持ちしました。失礼致します」
メイド役の先輩が、裏声で呼び掛ける。この先輩は、黙っていれば綺麗な女装なのだが、やはり声はごまかせない。シリアスなシーンだったが、所々で笑い声が起こった。
部屋に入っても、姫の姿は無い。メイドはきょろきょろと辺りを見回した。
「姫さま? おやつですよ。姫さま? ……どこに行ってしまわれたのかしら。……!」
彼女は、部屋の窓が開いていることに気がついた。嫌な予感がした。彼女は窓に駆け寄り下を見下ろすと、悲鳴を上げて叫んだ。その拍子に落としたティーカップ達が、大きな音を立て粉々に砕け散った。
「誰か! ひ、姫さまが……姫さまが居なくなってしまったわ!!」
メイドの叫び声を聞きつけ、使用人達が部屋に集まってきた。その人々の間を通り抜け一番前に出てきたのは、いつも姫の側に居た執事だ。彼は嗚咽を漏らすメイドに近づいた。
「落ち着いて。何が起こったんですか?」
「ひっ、姫さまにおやつを運んだのですが……私が来たときには、もう、もう姫さまはっ……!」
メイドは開いた窓を指した。それを見て、何となく状況を把握した執事は一言放った。
「……私が探しに行きます。皆さんはいつも通り業務を行って下さい」
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こめ(プロフ) - 蒼月さん» コメントありがとうございます!ひええ……勿体無いお言葉ありがとうございます:;(∩´_`∩);:とても展開も更新も遅いのですが、頑張ろうと思います…!! (2017年9月10日 22時) (レス) id: 68f211f4d4 (このIDを非表示/違反報告)
蒼月 - 文章が綺麗でとても読みやすかったです。BL?は初めて読んだのですが、文のおかげで内容に入り込みやすかったです。この作品がとても好きなので、これからも更新頑張ってください!待ってます! (2017年9月10日 21時) (レス) id: 7a41753020 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(プロフ) - カジャさん» いえ、ゴンドラの唄の命短し恋せよ少女を元にしました。 (2017年8月15日 22時) (レス) id: c081f3254b (このIDを非表示/違反報告)
カジャ - 夜は短し歩けよ乙女からタイトルとってますか? (2017年8月15日 17時) (レス) id: 6539cbd64d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/chiy1/
作成日時:2016年11月5日 12時