68.誤解です ページ29
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あまりに突然のことに呆然としていると、会長は俺に構わず言葉を続けた。
「かおるんがそんなに嫌だとは思わなかったんだ。傷つけちゃったよね、本当にごめん」
会長は上半身を起こし、俯きながら言う。
こんなに気落ちした、というか、辛そうな表情の会長を見るのは初めてで。これはきっと心からの謝罪なのだろう、とすぐにわかったが──。
「……あの、何のことですか?」
「へ?」
「もしかして劇の……最後のあれのことですか? 俺別に傷ついてないですけど……」
何となく、キスと言うのは避けたかったので指示語でぼかす。あれを気にしていないわけじゃないが、不快だと思ったわけではない。
思っていることを素直に伝えると、会長はぽかんとした顔で俺を見上げた。するとその瞬間、ぱあっと笑顔になり、いきなり俺に抱きついてきた。
「良かったぁぁああああ!!!」
「ちょっ、離して下さい苦しいんで……!」
「あと一日頑張ろーね! 目指せ、女装コン一位!」
「はあ!? そんな不名誉な賞要りませんよ!!」
忘れていたが、ここは寮の廊下だ。大声でそんなやり取りをしていると、当然響くわけで。
何事かと色んな部屋の扉が開き、何人もの人がこちらの様子を伺っている。それに気づいた俺は、急いで会長を引き剥がした。
「あっ、かおるん離れないで……!」
「ではまた明日。というか息切らしてまでここに来なくても、明日で良かったと思うんですけど……」
「感謝と謝罪はできるだけ早く。僕のモットーその一」
「そうですか……」
「じゃあおやすみ、かおるん。ゆっくり休んでねー」
「おやすみなさい」
会長に手を振り返し、やっと終わったと部屋に戻ると、無表情の利島がこっちを見ていた。
「……ああいう人なんだよ、会長」
「……ふーん」
それだけ言うと、利島は夕飯を食べ始めた。……よくわからないが、機嫌は直ったようだ。俺も箸を取り、食事を再開する。
利島の料理の腕は、かなり上がっていた。
(利島は機嫌を直したのではなく、会長に絡まれる柏木に同情したのだが、それは利島にしかわからない)
*
ヘロヘロになってベッドに転がると、そのまま眠れてしまいそうだった。
明日の準備は何だっけ、女装コンテスト出たくねぇ……そんな事を取り留めもなく考えていると、ふと四十川に言われた事を思い出した。
あいつ、L◯NE返信しろとか言ってたな。俺は久しぶりにスマホを起動させ、アプリを開く。
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こめ(プロフ) - 蒼月さん» コメントありがとうございます!ひええ……勿体無いお言葉ありがとうございます:;(∩´_`∩);:とても展開も更新も遅いのですが、頑張ろうと思います…!! (2017年9月10日 22時) (レス) id: 68f211f4d4 (このIDを非表示/違反報告)
蒼月 - 文章が綺麗でとても読みやすかったです。BL?は初めて読んだのですが、文のおかげで内容に入り込みやすかったです。この作品がとても好きなので、これからも更新頑張ってください!待ってます! (2017年9月10日 21時) (レス) id: 7a41753020 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(プロフ) - カジャさん» いえ、ゴンドラの唄の命短し恋せよ少女を元にしました。 (2017年8月15日 22時) (レス) id: c081f3254b (このIDを非表示/違反報告)
カジャ - 夜は短し歩けよ乙女からタイトルとってますか? (2017年8月15日 17時) (レス) id: 6539cbd64d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/chiy1/
作成日時:2016年11月5日 12時