お祭り３ ページ50
.
そこだけ世界が切り取られているようだった。
穴場だと葉隠が連れてきてくれた高台の展望台は人が少なく、少し下には明るい屋台の光と楽しげな人々の声が聴こえる。
それとは対照的に静かで落ち着いた黒に近い紺色の夜空は、あっという間に光に支配された。
大輪の花。
Aは初めて見る天に咲く華に口をぽかんと開けて魂が抜けたように見惚れていた。
闇を光で埋め尽くした華のなんと美しい事か。
Aの赤い瞳には花火の光が映し出されて何色にも輝いている。
それは、今まで耳郎が見た中で一番美しいものだった。
目の前で打ち上げられる大輪の花よりも、一人の少女の紅い目に閉じ込められた花々と光に照らされた顔から目が離せなくなった。
何故か込み上げてくる涙を必死に留め、耳郎はAから目を逸らして大きな華を見つめた。
誰かに名前を呼ばれた気がしてAが振り返ると、そこには肩を上下に動かしてぜぇぜぇと呼吸を整える心操と目が合った。
『え、なん』
Aが言い終わらないうちに心操は白く細い手首を掴んで走り出した。
耳郎含めAと並んで花火を見ていた六人は唖然としている。
『ちょっ、どこい「好きだ」
凄い速度で花火を背に走る心操にAが文句を言おうとすると、心操は急に立ち止まってその言葉を遮ってまるで少女漫画のような言葉を吐き出した。
Aは顔はみるみるうちに歪ませて手を振り払い、微かに唇を震わせて心操を突き放す言葉を吐き捨てた。
『私の事何も知らないくせに』
「そんなこと」
『過去も秘密も本当の私だって何一つ知らないくせによくそんなこと言えるよね。
私、あんたが思ってるほどいい人間じゃないから。』
両手で耳を塞ぐようにして下を向くAの身体は誰が見てもわかる程に震えていた。
「確かに俺はあんたの事何も知らない。
でもあんたよりは、あんたのいい所を沢山知ってると思う。」
Aは力の篭った心操の言葉に は と 声を漏らして、唇を噛み締めた。
『バッカじゃないの』
震える声を絞り出すようにして暴言を吐き捨て、Aはくるりと踵を返してそのまま走り去った。
初めて向けられた純粋な愛情にAの身体の震えは収まらない。
ただただ眩しくて、恐ろしかった。
(あんな表情で言う台詞じゃないだろ)
心操は去り際のAの泣きそうな表情が忘れられなかった。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
続編移行します
お気に入り44人、評価18票
そして読者様方に心からの感謝を。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 63人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちとせ(プロフ) - ひまりさん» わーいありがとうございます！精一杯頑張ります。 (2020年5月16日 13時) (
レス) id: f121ce48a2 (このIDを非表示/違反報告)
ひまり(プロフ) - 最近ヒロアカにハマって一気読みしました！とっても面白いです！これからも更新頑張ってください！！ (2020年5月16日 2時) (レス) id: d2e32c185c (このIDを非表示/違反報告)
ちとせ(プロフ) - こおりさん» ありがとうございます！自己満作品ですがどうかこれからもよろしくお願いします。最推しは轟くんなのですが、最近弔くんがとても好きです！ (2020年5月12日 19時) (レス) id: f121ce48a2 (このIDを非表示/違反報告)
こおり(プロフ) - とても面白いです！！ これからも頑張ってください！応援してます！！ ちなみに最推しは誰ですか？？？ (2020年5月12日 15時) (レス) id: 335947b1ed (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ちとせ | 作成日時：2020年4月30日 15時
