指名３ ページ19
隣にいるAは猫を撫でる手をそっと離して心操と交代する。
Aは誰のものでもないのに心操に取られてしまったような、黒くもやもやとした気持ち。
恋愛感情では全く無いのだが、どこかそれに似た気持ちを抱えた耳郎は笑みを貼り付けながら仲つむまじく会話する二人を眺めていた。
声は表情よりも隠しづらい。
耳郎の耳から生えているイヤホンジャックは、声の微細な変化を瞬時に捉える。
無愛想であまり感情を表に出さない心操の声は恋愛事に疎い耳郎にもわかる程に、愛しさや優しさといった甘い感情を孕んでいる。
『響香？きょーか、おーい』
「うぇっ、何？」
どこか遠い場所を見つめているような耳郎の目の前でAが手を振り顔を近づけると、耳郎は驚いて尻もちをついた。
そのはずみで猫は にゃあ と一声鳴いて驚いたように逃げて行った。
『わっ、ばいばい』とAは名残惜しそうに猫の後ろ姿に手を振り、立ち上がる。
「猫好き？」『うん、大好き。かぁいい。』
「猫カフェとか行ったことある？」
『え、何それ無い行きたい』
「今度誘うよ」『やった』
ちゃっかりとデートの誘いを取り付けている心操とそれに全く気づかないAを、耳郎はただぼんやりと眺めていた。
『響香、帰んないの？』
さっきからぼーっとしてるけど と口を尖らせて心配げに顔を覗き込むAに、耳郎は慌てて 大丈夫 と応える。
(心操はAが好きなんだな)
耳郎は初めて、人の恋心というものに触れてしまった。
それはあまりにも危険な音と香りがして、耳郎の頭は考えることを放棄してしまう。
Aは誰から見ても美しく、それでいて可愛らしい。
友達として、あるいは親友として。
普通の友達よりも少し重い関係だと認識しているのは自分だけなのかもしれない と耳郎は恐れを覚える。
「Aはすぐ誰とでも友達になれて、なんか羨ましいや」
『そうかなぁ、でも響香は一緒にいて他の人となんか違う感じする。』
耳郎は俯いて自虐的に笑っていたが、Aの言葉を聞いて弾かれたように顔を上げる。
「ほ、ほんと？」
『ほんとだけど……すごい食いつくね』
Aは驚いたように一歩後ろへ下がり、首を傾げた。
耳郎は先程までの心を灰色が支配していく感覚がまっさらに洗われたような気分になった。
「ウチもそうだよ、アンタは特別！」
『それはよかった。』
まるで普通の女子高生の会話。
笑い合う二人の背には茜色の空が広がる。
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ちとせ(プロフ) - ひまりさん» わーいありがとうございます！精一杯頑張ります。 (2020年5月16日 13時) (
レス) id: f121ce48a2 (このIDを非表示/違反報告)
ひまり(プロフ) - 最近ヒロアカにハマって一気読みしました！とっても面白いです！これからも更新頑張ってください！！ (2020年5月16日 2時) (レス) id: d2e32c185c (このIDを非表示/違反報告)
ちとせ(プロフ) - こおりさん» ありがとうございます！自己満作品ですがどうかこれからもよろしくお願いします。最推しは轟くんなのですが、最近弔くんがとても好きです！ (2020年5月12日 19時) (レス) id: f121ce48a2 (このIDを非表示/違反報告)
こおり(プロフ) - とても面白いです！！ これからも頑張ってください！応援してます！！ ちなみに最推しは誰ですか？？？ (2020年5月12日 15時) (レス) id: 335947b1ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちとせ | 作成日時：2020年4月30日 15時
