間違えないでね ページ22
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「じゃあちょっと、私の教えて貰えますか。」
各々が各自の出方を伺っている状況で、意に介さず話しかけたのはマサシ、という男だ。
スクリーンをちらりと見て名前を確認する。
あなたの教えますんで。
男はそう言い、首輪を見せようと後ろを向く。
そうだよ、これだ。
ジャック以外は答えを教えないメリットなんて無い。
万が一嘘をつかれたとしても、ソイツがジャックだって事。
そう、思っていたけれど
「このゲームは21人でじゃんじゃん殺し合ってハートのジャックをしとめれば良いんだよな?」
ヤバ。
モニターに表示された男の名前だ。
余裕そうな表情で、地面を見つめながら2人を咎める。
「そんなに簡単に信用していいのか?」
お互いが疑心暗鬼に陥ったのか、距離を取り始める。
……なんでそんなこと言うんだよ。
ジャックじゃないやつを惑わせてどうするんだよ。
何とも言えない不快感に眉を顰めると、ヤバがチラリとこちらを向く。
……え、何で?
目が合った事に動揺して思わずチシヤさんを見る。
相変わらず読めない表情。
ふぅ、とため息をついたヤバがほくそ笑んだ。
「例えばほら、そこの女。カラスみたいなフード被ってる。」
そこの女。
目を合わせながらそういうのは、Aさんだ。
相変わらず目深に被ったフードを取る気配もない。
チラリとモニターを目視したヤバが皆に聞かせるように態と大きな声を出す。
「正体を隠してるみたいだけど、キミ。天才ピアニストの鳥谷Aだろう。」
どよめきが起こる。
天才ピアニストの、鳥谷A…?
一時期、公演のPRでCMにも演奏する様子が流れていた、あの?
信じられなくて彼女の方を見る。
「あーあ。」
無感情なチシヤさんがチラリと彼女を見ながらため息をついた。
黒いフードが取り払われ、中に隠されていた宝石に男だけではなく女も目を見張る。
「“元” ピアニストだから。」
いつになく冷たい声でそう言いながら、細い指先でなんの躊躇いもなくフードを降ろす。
サラサラの黒髪が靡いて零れ落ち、端正な顔立ちと宝石のような瞳がじっとヤバを見つめた。
「間違えないでね。」
うっそりと笑ったAに参加者が見とれる。
ヤバがうっすら目を細めたと同時に、後ろでチシヤさんが「厄介なの引っ掛けちゃって。」と言う声がした。
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作者名:みりん | 作成日時:2023年3月13日 23時