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ハートのジャック ページ18



Ippei side



まるで地獄だ。
こんな世界に来なければ一生入ることの無かったであろう場所を見つめながら、自分が置かれた状況を整理する。
ハートのジャック。
体力戦や頭脳戦、協力戦など、どれをとっても何一つイマイチな自分がこれなら勝てるかもしれないと目星をつけたゲーム。
いわゆる「ワンチャン」というやつだ。
ジャックという、絵札の中では1番弱い響きに当てられここまでやってきたけど…。


「物騒だなぁ……」


中央刑務所。
遠くからわざわざ歩いてきて、生き残れますようにと願いながら飛行船を辿ってきたが、ゲーム会場の恐ろしさに震え建物内に入るのにまごついている。
立ちすくむ自分を軽蔑したように見ながら続々と門を潜るプレイヤー。
……やっぱり無理だ。
残りビザはあと1日、これを逃したら死ぬかもしれない。
だけど、どうしても決心がつかない。
踵を返して、今からでも別のゲーム会場を探そうとした時……。


「なにかお困りですか?」

「うわぁっ!」


黒のフードを目深に被った女性がこちらへ話しかける。
少し覗く口元だけで端正な顔立ちの女性だと分かり、少しだけ体を強ばらせた。


「入らないんですか…?」


いい匂いがする。
甘い、まるでバニラのような。
優しい香りにポケッとしていると、白い綺麗な指で中央刑務所を指さした。


「ゲーム、しないんですか?」

「あ……でも、怖くって」


何を言っているんだ自分は。
困ったような仕草をとった女性は、後ろをチラリと向く。
何かあるのか?
彼女の目線を辿って初めて、白いフードを被った男の人がいることに気がついた。
うわぁ、と情けない悲鳴をあげると、男がチラリとこちらを向く。
顔は隠れていない程度に被っているみたいで、清涼な目元が冷たくこちらを観察するのがまた怖かった。

チシヤ、と短く呼ばれた男はプイッとそっぽを向く。
自分だけ建物へ歩き出して静かに言った。


「構わないでいいんじゃない?君のビザが残り何日なのか知らないけど」


真っ青な顔をしながら立ちすくむ自分を見ておおかた察したのだろう。
……そうだ。ここから離れてもし次のゲーム会場が見つからなかったら、ゲームオーバーになって死んでしまう。
せっかくここまで生きのびたのに…?
そんなの、嫌だ。

どうか易しいゲームであってくれ。

前を向きながらそう願う自分が門を潜る様子に、女の人はホッとした仕草を見せた。

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作者名:みりん | 作成日時:2023年3月13日 23時

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