この部屋で ページ14
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「うん、とりあえずこれぐらいかな。」
下のキッチンで調達してきたよ、と私の手に載せるのはサバ缶だ。
時間の経過がどこかおかしいこの世界では、インスタントや缶類は大活躍だ。
ありがとう、と微笑めば私に部屋の鍵を渡すチシヤ。
「別の部屋を探してくるね。Aは今日はここ。」
え、と掠れた声を出せば、気が付かないのかドアに向かって歩き始める。
ドクリ。
彼と離れ離れになってしまったあの時を思い出して胸が変な音を立てた。
「…A?」
気がつけばチシヤのロングカーディガンの袖を握りしめていた。
読めない瞳がジッとこちらを射抜いているのが分かる。
下を向きながら
「この部屋でいいじゃん」
と言う。
…お願い、拒まないで。
心の中でそう祈り続けていると、落とされたのはハァ、という微かなため息だった。
……嫌われた。
頭の中が真っ白になり、慌てて取り繕った笑顔を作り顔を上げた。
「あ、ちが、今のは…」
呼吸が止まる。
彼の瞳の奥に、僅かな感情の種を見つけたような気がして。
不意に私の手を掴んだチシヤが、ドアとは反対方向にベッドまで進み、
「キャッ、何、チシヤ…?」
私をそこに押し倒す。
ライフラインが通っていないため、開け放たれたカーテンから漏れる月明かりだけが頼りだ。
影になって見えないチシヤを呼びながら、パンクしそうな思考の中で何が起こったのか考える。
「…あの、」
「Aは」
私の言葉を遮るように、チシヤは体のラインをなぞる。
その手つきが妙に何だか…いやらしくて、私は思わず甘い声を上げた。
「いいの?こんなことをされても」
いくら恋愛経験が乏しいとはいえ、様々な男の人と体を重ねてきた。
最低だけど、ビーチに入ってもチシヤと出会う前までは、裏切り者か確認するために体を使って仕事をした事もある。
全部ボーシヤの為だと思い込ませていながら。
……だけど、これは仕事でも流される訳でもない。
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作者名:みりん | 作成日時:2023年3月13日 23時