仲間 ページ42
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結局の所、ウルミは人の気持ちに共感できないのだと思う。
「あの女を、殺そう」
10ターン目が始まり、各々の精神状態が限界に近づいたところで男がそう切り出す。
後ろからじっと見つめている私達は、崩壊は案外呆気ないな、とため息をついた。
「ありがとう、信頼できるのはあなた達だけね」
楽しげに笑うウルミ。
自分が嘘をつかれたとはまるで思っていない。何故だろう、自分が騙すのであれば同様に騙される覚悟も持たなければならないのに。
どうして人を蹂躙するだけの立場だと思えるのだろう。
チシヤがクッキーを口に運びながら観察する。
ウルミは、……彼女はこのターンで死ぬ。誰も教えなければ。
彼女に劇的な大どんでん返しがない限りは、きっと。
私は知っている、奇跡なんてそうそう起こらないという事を。
「……Aさん」
黒い瞳がこちらを覗いた。
なぜ生きているのか、自分が教えたマークを信じなかったのか。そう詰られると思い真っ直ぐ彼女の方を見ると、意外にもウルミはワンピースの裾のシワを直しながら言う。
「貴方にも信頼出来る仲間がいるのね。」
……どういう意味だろう。
真っ黒な底なし沼のような瞳の奥に何かがチラついた気がして、私は思わず目を見張った。
彼女の心に少しだけ、僅かばかりの太陽が当たった気がして私は唇を開きかける。
何を言うかも定まらないまま。
「……A」
ウルミが地下室から出ていった後も、出入りする人間の観察を続けるチシヤ。
ただボーッと佇んでいる私は、どこかで道を踏み違えたウルミを思う。
最後の公演、観客席にいた彼女と舞台に立っている私を思い浮かべる。
何を思ったのだろう。
どう感じたのだろう。
不可能に近い話だと分かっているけれど、考える。
あの時彼女を見つけていたら、何かが変わっていたのかな。
取り留めもない話を思い浮かべる私に、そっとチシヤがクッキーを手渡した。
「食べないと、持たないよ？」
何度目の言葉だろう。
彼が美味しいと太鼓判を押すクッキー。眺めていると何だかおかしくなって、クスリと笑い声を漏らしながら包み紙を開ける。
「ありがとう、チシヤ」
パリ、と噛み締めればバターの良い香りと共に空腹感が刺激される気がした。
ここに来て初めて食べる食事。
【貴方にも信頼出来る仲間がいるのね。】
彼女の言葉を思い出し、私はもうひとつ彼の手からクッキーを受け取った。
そのターンで、ウルミは死んだ。
彼女が入った独房を、誰も覗くことは無かった。
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作者名：みりん | 作成日時：2023年3月13日 23時
