過去の話 ページ24
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chishiya side
「Aさんのマークはクラブです！」
「クラブクラブ！」
同調するように言う周りのマークに、Aが髪の毛を戻し「ありがとうございます」と礼を言った。
確かに彼女のマークはクラブだ。
ここで動く輩は居なさそうだな。
下でもマークを教え合う男2人を見ながらため息をついた。
バンダと、マツシタだったっけ。
かく言う自分も、目立つ人物の名前は覚えた。
……すぐに死にそうなやつは覚えようともしなかったけど。
「あの、Aさんってホントにあの…？」
「そうだよな、俺も気になってたんだ」
同じ階でマーク合わせをする、別のチームがチラリとこちらを見る。
気になっていたんだろう。
「…もう辞めましたよ」
その言葉は、裏を返せば肯定だ。
わぁ、と盛り上がる人達に苦笑しながらAは視線を落とした。
「惜しいなぁ、ここにピアノがあったら弾いて貰えたのに！」
弾いてくれることが前提のプレイヤーの言葉にバカバカしくなってきた鼻を鳴らせば、黙って静観していたウルミが声を掛けた。
「でも、何か理由があって辞めたんでしょお？」
ざわめいていた声がピタリと止んだ。
ヤバとコトコが探るように此方を見ている。
…特に、ヤバという男。
Aの正体を白日の元に晒して、何がしたかったのやら。
「…そうですね。弾けなくなったんです」
微笑みながらそう言うAに、気まずそうな顔をするプレイヤー。でも、もう大丈夫ですよ、と彼女が声をかけると、その場の空気が再開した。
……さぞやり辛いだろう。
影のある笑顔を見せながらコチラへ戻ってくるA。
「お疲れ様」
「うん、ありがとう。……次、チシヤだよ」
目を合わせずに、どこか遠くを見るような仕草。
そう言えば、彼女から詳しい過去の話は聞いていないなと思い出す。
Aが傷つくことの無いように、穏便に終わればいい、と。
絵柄のゲームで、そんな甘っちょろいことを考えてしまうくらいには自分はどうかしていた。
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作者名：みりん | 作成日時：2023年3月13日 23時
