五十七話 ページ9
目を開けると、薄紫の瞳と、黒い頭巾を被った人と目が合った。その隙間からは星が見えて、私が寝転がっていることが分かる。
「……起きたか」
「み、んなは……?」
私の声はカスカスで、喉の違和感に咳き込むと、鮮血が飛び散った。愈史郎くんは、そんなふうに満身創痍の私に眉根を寄せて、
「お前は、左手の肘から下を欠損した」
「……知ってるよ」
さっきから、強い痛みと熱さを主張してくる左腕がどうなっているかなんて、見なくても分かっていた。
「でも、私は行くよ」
「桜柱様……!その怪我で動けば死んでしまいますよ!?」
隠の方は涙を浮かべて、私の右手を握った。本気で私の身を案じてくれているけれど、ここで諦めては、しのぶちゃんを待たせている意味が無い。
「鬼舞辻を倒せるなら、私は死んでもいいよ」
そう笑って、右手を離した。壁に手を付いて、立ちあがる。出血がひどいせいか、目の前がぐらぐらと揺れた。腰に差している刀の柄を握って、走り出した。
もし、もしも、私が鬼舞辻を倒せず死んだとしても、しのぶちゃんはきっと、
『頑張りましたね』
って笑ってくれる。
その言葉で、私は幸せになるのだろうけど。
満足感でいっぱいになるのだろうけど。
私は、最期まで戦いたい。鬼舞辻を倒して、彼女に『倒せたよ』と笑って報告したいのだ。
『鬼舞辻無惨を倒す』
その為なら、どんな犠牲も払ってみせる。
たとえそれが、
「____桜の呼吸 終ノ型 散り桜」
自分の寿命を削るものだったとしても。
桜の花びらが舞う、美しい幻影。その幻影が消えた時、鬼舞辻の体には、二本の刀が深く突き刺さっていた。一つは、私の刀。もう一つは、伊黒さんのもの。
「亡者が……!」
と血を吐くアイツの周りには、数多の仲間の死体。その中には、私の知っている人もたくさんいた。そんな人達を、アイツは踏みつけにしている。
許せるものじゃない。
「終ノ型 散り桜」
また、幻影。この技は、本当に強力なものだ。参ノ型とは比べ物にならないくらいに、相手への威力が大きい。その反動として、私の命が削れる。その代償の大きさから、今まで使って来なかったけれど、今使わなければ、どこで使えと言うんだ。
痣で寿命が削られ、そして終ノ型の連発で更に削られる。長く生きれて二十二。それどころか、この戦いの後に、生き残っている保証もない。
それでも、私は戦う。
「終ノ型」
朝日を笑って迎えるために。
「散り桜」
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べにしょうが(プロフ) - 天霧さん» コメント有難うございます!泣いていただけるくらい感動してもらえて感謝の極みです。とても良かったと言っていただき、とても嬉しいです。最後まで読んでいただき、有難うございました! (2021年9月26日 19時) (レス) id: f3b55f3d47 (このIDを非表示/違反報告)
天霧(プロフ) - もう、涙が止まりません。どうしてくれるんですか!?本当にいい作品です!本当に泣いちゃったよ(泣)。お疲れ様でした。とても良かったです (2021年9月26日 19時) (レス) @page20 id: 8490818b21 (このIDを非表示/違反報告)
べにしょうが(プロフ) - 憂菜さん» コメント有難うございます!すごく満足していただけたみたいでよかったです。次も何か書こうかなと思っているので、その時も是非よろしくお願いします!最後まで読んでくださって有難うございました! (2021年5月23日 9時) (レス) id: f3b55f3d47 (このIDを非表示/違反報告)
憂菜(プロフ) - べにしょうがさん» わぁぁぁぁ、とてもいいお話でした!!感動しました!!!こんな素晴らしい小説を書いてくださってありがとうございました!!!! (2021年5月23日 0時) (レス) id: dc1cce0ebb (このIDを非表示/違反報告)
べにしょうが(プロフ) - 憂菜さん» コメント有難うございます!楽しみにしてくださってるの本当に嬉しいです。投稿頑張ります! (2021年5月17日 7時) (レス) id: f3b55f3d47 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:べにしょうが | 作成日時:2021年4月10日 21時