五十五話 ページ7
「奴の体を注視しろ!体が透けて見えないか!?」
悲鳴嶼さんの指示に従い、鬼舞辻を見つめる。瞬きすら惜しい。眼球が乾き、ヒリヒリと痛む。それでも、それでも見つめる。
一瞬、筋肉と骨が透けて見えた。
「何、さっきの……!?」
驚きに声を上げた瞬間、鬼舞辻が目に追えない速さで腕を動かす。
視界が白く染まっ________。
目を開けると、真っ暗な闇が広がっていた。刀鍛冶の里で見たような、走馬灯は現れない。
「ここは……?」
思わずこぼれた私の声は、笑いそうになるくらい弱々しい。辺りを見回してみるも、全て真っ暗闇だ。意識を落としたのだろう、と理解した。
……起きなければならないだろうか。
きっと、起きないと駄目だ。
でも、私は…………疲れてしまった。もういっそ、終わらせてしまいたい。私の命を。
だって、私は、
炭治郎くんのように、どれだけ打ちのめされても、一人で立ち上がれる心の強さがない。
悲鳴嶼さんのように、圧倒的な技量がない。
しのぶちゃんのように、最期まで戦い抜く覚悟がない。
何よりも私は、しのぶちゃんに会いたくて仕方がなかった。
言い訳にしかならない気持ちが、私を絡め取って離さなかった。そしてその言い訳に、私は縋っている。
しのぶちゃんに会いたいから、意識を取り戻したくないなんて。戦いたくないなんて。そんなのは、ただの甘えだ。彼女への気持ちを口実に、私はただ逃げてるだけ。
『__いいんですよ、逃げたって』
「……え?」
唐突に、後ろから声がした。その声は、紛れもなくしのぶちゃんのもので。振り向くと、隊服に身を包み、あの羽織をまとう、いつもの姿。そして、いつものように笑っていた。
「しのぶ、ちゃん?本当に?」
『はい。鬼殺隊の蟲柱で、そしてAさんの彼女である、胡蝶しのぶですよ』
照れたように頬を染めたあと、愛おしい彼女は口を開いた。
『Aさん、よく頑張りましたね。もういいんですよ、やめたって。だって、十分やったじゃないですか』
私をどろどろと甘やかすように、しのぶちゃんはそう言った。いっそ毒のような甘言を、耳元で囁く。
『その……、私もAさんと早く会いたかったんです。ねえ、Aさん。一緒にいきましょうよ』
その言葉で、私は確信した。彼女に、にっこりと笑いかける。
そして____。
「今のしのぶちゃん、なんか変だよ」
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べにしょうが(プロフ) - 天霧さん» コメント有難うございます!泣いていただけるくらい感動してもらえて感謝の極みです。とても良かったと言っていただき、とても嬉しいです。最後まで読んでいただき、有難うございました! (2021年9月26日 19時) (レス) id: f3b55f3d47 (このIDを非表示/違反報告)
天霧(プロフ) - もう、涙が止まりません。どうしてくれるんですか!?本当にいい作品です!本当に泣いちゃったよ(泣)。お疲れ様でした。とても良かったです (2021年9月26日 19時) (レス) @page20 id: 8490818b21 (このIDを非表示/違反報告)
べにしょうが(プロフ) - 憂菜さん» コメント有難うございます!すごく満足していただけたみたいでよかったです。次も何か書こうかなと思っているので、その時も是非よろしくお願いします!最後まで読んでくださって有難うございました! (2021年5月23日 9時) (レス) id: f3b55f3d47 (このIDを非表示/違反報告)
憂菜(プロフ) - べにしょうがさん» わぁぁぁぁ、とてもいいお話でした!!感動しました!!!こんな素晴らしい小説を書いてくださってありがとうございました!!!! (2021年5月23日 0時) (レス) id: dc1cce0ebb (このIDを非表示/違反報告)
べにしょうが(プロフ) - 憂菜さん» コメント有難うございます!楽しみにしてくださってるの本当に嬉しいです。投稿頑張ります! (2021年5月17日 7時) (レス) id: f3b55f3d47 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:べにしょうが | 作成日時:2021年4月10日 21時