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六十三話 ページ15

「いえ。しのぶ姉さんもきっと、自分の大好きな人に持っててもらう方が、嬉しいと思うので」

そう言いながら、私に髪飾りと羽織りを握らせるカナヲちゃん。私の手に収まるそれを、ただ見つめる。

羽織りの破片は所々、赤黒く汚れていて、少し心が痛くなった。でもそれは、彼女の奮闘の証だから。その汚れ()をそっと撫でて、目を閉じた。


____私は、ずっと、Aさんの傍に居ますから___


別れ際、そうやって笑ったしのぶちゃんを思い出す。目の奥がギュッと熱くなって、目を開けると同時に、ぼろりと透明の雫が布団に落ちた。一つ、二つ、三つとその雫が増えていく。

「しのぶちゃん……っ!!」

しのぶちゃん、しのぶちゃんと彼女を呼び続ける私に、皆寄り添ってくれた。

私の小さな背中を撫でて、もう使い物にならない右耳に触れて、もう無い左腕を優しく見つめてくれる。

叩かない。
殴らない。
疎ましげに見ない。

皆、心優しい人だということを、本当は知っていた。私が仮に泣いたとしても、きっと優しく慰めてくれることくらい、分かりきっていたのだ。

それでも、少し、ほんの少し、怖くて。心の奥底に根付いた恐怖は、簡単に離れてくれなかったから。私はずっと、泣けなかった。

でも、今になったら思う。
もっと早く、皆の前で泣いておけばよかったなって。

蜜璃ちゃんなら、アワアワしながら抱き締めてくれる。
煉獄さんなら、熱い言葉をかけてくれる。
伊黒さんなら、かなり遠回しに励ましてくれる。
無一郎くんなら、どうでも良さげにしながら、そっと寄り添ってくれる。
悲鳴嶼さんなら、同じように泣いてくれる。

皆がどんな反応をするかって、分かってるんだから、泣いておけばよかった。変に我慢しないで、ありのままの自分で。

「しのぶちゃん、しのぶちゃん……!」

「そんなに泣いたら、目が溶けちまうぞ」

不死川さんが面白そうな声色で、私の目元を拭った。あまりにも優しいその手付きに、私はまた大粒の涙をこぼした。

「不死川さん!?Aさん泣いてますけど……!?」

焦る炭治郎くんに、私は笑いかけた。きっと、涙でぐちゃぐちゃで酷い顔をしているだろうけど。

「大丈夫だよ。__嬉し涙だから」

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べにしょうが(プロフ) - 天霧さん» コメント有難うございます!泣いていただけるくらい感動してもらえて感謝の極みです。とても良かったと言っていただき、とても嬉しいです。最後まで読んでいただき、有難うございました! (2021年9月26日 19時) (レス) id: f3b55f3d47 (このIDを非表示/違反報告)
天霧(プロフ) - もう、涙が止まりません。どうしてくれるんですか!?本当にいい作品です!本当に泣いちゃったよ(泣)。お疲れ様でした。とても良かったです (2021年9月26日 19時) (レス) @page20 id: 8490818b21 (このIDを非表示/違反報告)
べにしょうが(プロフ) - 憂菜さん» コメント有難うございます!すごく満足していただけたみたいでよかったです。次も何か書こうかなと思っているので、その時も是非よろしくお願いします!最後まで読んでくださって有難うございました! (2021年5月23日 9時) (レス) id: f3b55f3d47 (このIDを非表示/違反報告)
憂菜(プロフ) - べにしょうがさん» わぁぁぁぁ、とてもいいお話でした!!感動しました!!!こんな素晴らしい小説を書いてくださってありがとうございました!!!! (2021年5月23日 0時) (レス) id: dc1cce0ebb (このIDを非表示/違反報告)
べにしょうが(プロフ) - 憂菜さん» コメント有難うございます!楽しみにしてくださってるの本当に嬉しいです。投稿頑張ります! (2021年5月17日 7時) (レス) id: f3b55f3d47 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:べにしょうが | 作成日時:2021年4月10日 21時

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