四十九話 ページ1
「あ、あそこよ!伊黒さん、Aちゃん!……上弦の肆だわ!」
下の方向を指差し、蜜璃ちゃんが叫ぶ。誘われるままに指差した方向を向くと、単眼で、長い髪の女の鬼。艷やかな黒髪は床に垂れていて、手元には琵琶。
「上弦の肆……!?無一郎くんが倒したはずじゃ……」
「大方、鬼舞辻が急遽追加したんだろう!行くぞ!」
蜜璃ちゃんが我先にと飛び降りて、琵琶鬼に斬りかかる。すると、ベンッと琵琶の弦が弾かれ、空中に扉が現れた。彼女はそれにぶつかって、鼻血を出しながら落ちていく。
「桜の呼吸 伍ノ型 桜雨ッ!!」
さっきと同じように現れた扉を回避して、頸を狙う。琵琶鬼は焦る様子を見せずに、私を一瞥した。次の瞬間、またベンッと音が鳴る。足元の襖が勢いよく開き、重力に従って体が落ちていった。
「この血鬼術、鬱陶しい!!」
落ちるところまで落ちたあと、壁を駆け上がり、もう一度同じ場所に立つ。すると、ぐにゃりと薄くて長い刀身が、視界を掠めた。どうやら、ようやく蜜璃ちゃんが戻ってこれたらしい。
こんなんじゃ、いつまでも足止めされる。柱が三人も捕まえられて、鬼舞辻の場所に辿り着けない。どうすればいい、と打開策を必死に考えていると、甲高い声が響いた。
「カァァァ!上弦ノ弐、撃破!シノブ、カナヲ、イノスケにより撃破!」
……また、刀を取り落しそうになった。震える指でそれを掴んで、落とさないようにする。ああ、嬉しい。しのぶちゃんの決死の復讐は、上手くいったのだ。
「よかった……」
唇からこぼれ落ちた言葉は、なんとも月並みで、弱々しく掠れていた。隣に来てくれた蜜璃ちゃんが、私を抱き締めた。
「頸を斬ったのね、カナヲちゃん達!」
涙に濡れた声で、喜々として彼女はそう口にした。私も蜜璃ちゃんを抱き締め返して、大きく頷いた。ぼろぼろと、彼女の頬に雫が伝う。私は彼女の目尻を拭って、いつか大切なあの子にしたように、それをぺろりと舐めた。
私は未だ、涙をこぼしはしなかった。
「桜の呼吸 漆ノ型 花筏」
刀を構えて、もう一度斬りかかる。当然のように現れた扉を避け、その次に現れた襖は切り刻んだ。そして、頸を狙う。今回は髪を一房斬って、私はまた、床に吸い込まれるように落ちていった。
しのぶちゃんは、文字通り命賭けで鬼と戦い、そして勝利した。ならば私も、命を賭けて相手と戦う。
__痣を出せ。
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べにしょうが(プロフ) - 天霧さん» コメント有難うございます!泣いていただけるくらい感動してもらえて感謝の極みです。とても良かったと言っていただき、とても嬉しいです。最後まで読んでいただき、有難うございました! (2021年9月26日 19時) (レス) id: f3b55f3d47 (このIDを非表示/違反報告)
天霧(プロフ) - もう、涙が止まりません。どうしてくれるんですか!?本当にいい作品です!本当に泣いちゃったよ(泣)。お疲れ様でした。とても良かったです (2021年9月26日 19時) (レス) @page20 id: 8490818b21 (このIDを非表示/違反報告)
べにしょうが(プロフ) - 憂菜さん» コメント有難うございます!すごく満足していただけたみたいでよかったです。次も何か書こうかなと思っているので、その時も是非よろしくお願いします!最後まで読んでくださって有難うございました! (2021年5月23日 9時) (レス) id: f3b55f3d47 (このIDを非表示/違反報告)
憂菜(プロフ) - べにしょうがさん» わぁぁぁぁ、とてもいいお話でした!!感動しました!!!こんな素晴らしい小説を書いてくださってありがとうございました!!!! (2021年5月23日 0時) (レス) id: dc1cce0ebb (このIDを非表示/違反報告)
べにしょうが(プロフ) - 憂菜さん» コメント有難うございます!楽しみにしてくださってるの本当に嬉しいです。投稿頑張ります! (2021年5月17日 7時) (レス) id: f3b55f3d47 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:べにしょうが | 作成日時:2021年4月10日 21時