鵺は今宵も哀しく鳴く

三十三 ページ34

及川side



姫ちゃんが、今度は他校のマネにいじめられた。



水道の側で、スポドリが散らばった地面に尻餅を着いた姫ちゃんの前に立つ烏野のマネの姿は、誰がどうみても悪女だ。



顔色が悪いのも、悪事がばれてしまったからだろう。



皆そう思っていると思っていたのに、Aちゃんは否定した。



そして、姫ちゃんが他校にまで手をかけたと罵った。



「ふざけんなよっ・・・お前が練習の邪魔をするなとか言うんじゃねえ！」



「実は他校とグルになって姫をいじめてんじゃねえのか」



マッキーの怒りも、まっつんの疑問も良く分かる。



けれど、Aちゃんが一度でも選手に媚びたり、練習を遮ったりしたことがあったのか。



練習の邪魔をするどころか、体育館の中に居るところをあまり見たことすらないのでは。


本当にこの子は悪女なのか。



『スポーツにしろ何にしろ、戦いという物にはどれだけの時間をかけたかによってその分精度が上がります。



つまり、練習時間が勝敗を左右すると言ってもいい。



貴方達は、この騒動によって、少しずつ全国への切符を逃している。



強豪と合同合宿なんて貴重な時間を、こんな下らない事で潰してていいんですか』



本当に悪女ならば、こんなに本気の目をするはずが無いんじゃないか。



「だからぁ、お前が練習について語る『私が選手の練習を遮ったりしたことが一度でもありますか？』は？いやそりゃぁ・・・無いな」



『私と仁花ちゃんがグルで西条さんをいじめてると思うなら思えばいいし、引き続き私を否定すればいい。



ですが、恋愛にうつつを抜かして何も見えなくなっている人たちに、全国制覇など夢のまた夢では無いかと思いますが』



Aちゃんは、そう言い捨てて烏野のマネの肩を抱きながら体育館に戻った。



残った俺たちに、烏野のからの軽蔑の視線が刺さった。

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