ちいさな恋のお話

◇　大城卓三 ページ17

-静か様リクエスト-









「よ！」


「...いった！」




部室前のベンチに座り、スパイクに
履き替えていたら
パシッと音を立てて叩かれた背中。






「なに、まだ走るの？」


「卓三くんだって、」




そう言って持っていたバットを指さした。







「俺はいいの、男だから。
もう暗いんだから明日にすれば？」


「今日やらなきゃ意味ないでしょ」


「...可愛くねえ、」


「可愛くなくて結構
ほらアップするからそこ邪魔」


「...何時？」


「なにが？」


「何時までやんの」


「...１時間ぐらい」


「じゃあ20時にもう１回ここ集合な」








いつもそう。

帰りが遅いとこうやって
グラウンドまで私を迎えに来ては
家まで送ってくれる。








「...ありがと」


「おー、俺も素振りしてくる」




そう言って走って行った。









.








「お疲れ、気は済みましたか」


「うん、なんとか」


「んなら帰ろ」







慣れたように私の家の方向に歩き出す。







「...しゅいだしゃ？だったらしいね」


「意味わかってないだろ(笑)」


「へへ、バレた？」


「...俺さ、多分就職する」


「うん、」


「はは、さすがに意味分かるよな(笑)」







そう言った卓三くんは力なく笑っていて。









「私はさ野球に詳しくないから
その...プロ、のことはよくわからないけど」


「...」


「でも野球してる時の卓三くんが
キラキラしてるっていうのはわかる」


「...キラキラってなんだよ」


「だからどこのチームにいても応援する」


「...」


「有名になったら私の事養ってね！」


「...なんでだよ(笑)
俺Aとは絶対結婚できないわ(笑)」


「なんでよ！失礼だな！」


「もっと色気のある
控え目な人がいいもん」


「ぴったりでしょ
色気あって控え目なんて」


「色気のいの字も
控え目のひの字もないでしょ」


「...さいてー」


「はは、ほら着いたから(笑)」


「...もう、じゃあね！ありがと！」


「ちゃんとお礼は言うんだな(笑)
おやすみ、また明日」









.







(馬子にも衣装ってこのことだな)
(私とは絶対結婚できないとか言ってたくせに)
(俺のサイン無視してボール球ばっか投げてたのAだから)
(...い、意味わかんないし)






.

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