Ryeowook＊shortstory＊〜大人ver〜＊

＊11＊ ページ23

・

「やります」
そんな返事をしたけど、あの雨の日からスケッチブックを開けなかった


久しぶりにリュックからスケッチブックを取り出すと、ようやくあの頃の感情が甦る

もう一度。うん、もう一度だけ。
頑張ってみようか

そして僕は久しぶりにヌナにメールをした

*スケッチブックを取りに行くよ*


＊*＊*＊

ヌナからの返信は
*いつものカフェで待っています*

いつものカフェ。
そう呼べるくらいヌナと行ってたっけ
違う、僕が必死だっただけ。
好きって気持ちしかなかったから………

カフェに着くと、ヌナはいつもの席に座って僕を待っていた
テーブルの上のグラスの水が空っぽになるくらい待ってたの？

「リョウクくん………」
小さく呼び掛けるヌナに
「今まで預かってくれてありがとう」
僕は、用件だけ伝えて帰るつもりだった

「これ………」
キレイに袋に包まれたスケッチブックがヌナの優しさなのか、雨に濡れて滲んだ表紙すらキレイに見える……

「ありがとう。じゃあ………」
椅子から立ち上がると、遠慮がちに僕の手首を握り
「一緒にお茶しませんか？」
心なしかヌナの声が震えている
もう一度椅子に座ると、
「ありがとう……ごめんなさい。」
ただでさえ弱い声が周りの音に消される

いつものようにコーヒーを飲みながら
だけど、会話の突破口が見つからなくて、黙ったままコーヒーの苦さを味わっていた

「あの人は………」
最初に口を開いたのはヌナ

あの人。それだけで誰のことかわかる。

「私の上司なの………」

上司？単なる関係じゃないでしょ？
だって、抱きしめられていたじゃん。

でも根掘り葉掘り聞くのは幼稚だから、それ以上触れなかった
言いかけたヌナの口がそれ以上動かないように。

「すごくスマートな男性だったよ。ヌナにお似合い……」
僕は、レシートを掴んで会計を済ませて店を出た

澄み渡った青空なのに傘を持つ僕

いつもの公園のベンチ。
ラッピングされた袋からスケッチブックを取り出すと、柔らかくなった紙。雨で滲んだ絵をパラパラ捲る


「何これ？…………下手くそ(笑)」

一番最後のページに描かれていたのは

僕の顔………………？

「下手くそ。笑える……」
そう声に出しながら、メッセージがぼやけて見えるのは、僕が泣いているからだと気づいた

反則だよ…



リョウクくん
私を描いてくれたお礼です。
写真もないから、私の記憶に残っているリョウクくんの顔を思い出して描きました。
写真ぐらい、撮っておけばよかったな。

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