293.些細なこと ページ43
▽YEONJUN(TXT)
チームだから。
メンバーにはそれぞれ役割があるんだ。
俺は一番上だから年下を守るのは勿論のこと、リーダーのスビナが言いにくいことも言わなきゃいけない。
そう思って活動してきたけど…。
「…疲れた、な。」
そう呟いてふぅとため息を付いた。
嫌な役回りをやるって決めたから、今更それがどうとか言うつもりはないんだ。
メンバー皆で夢を追いかけていたキラキラした日々は、デビューを迎えて只々忙しい日々に相殺された。
いや、忙しいのは別に悪いことじゃない。
ただ、そう。疲れたな。って思っただけ。
練習室の外の廊下のベンチに座り、項垂れる。
そうすることは別に深い意味はなかった。
ピトと冷たい缶コーヒーが頬に当てられ、
「ヨンジュン、お疲れ様。」
そう声がかけられた。
顔をあげれば、Aさんが目の前に立っていた。
「お、お疲れ様です。」
彼女に渡された缶コーヒーを受け取りそう返せば、彼女は自然と俺の隣に座った。
「慣れるまで大変だけど、まぁ、すぐ慣れるよ。」
Aさんはそう呟いた。
確信めいたその言葉に思わず、
「慣れる、かな。」
と弱気な言葉が飛び出した。
「うん、だってヨンジュンは若いから。」
「若い？」
「うん。うちのオッパ達なんて…ヨンジュン達に比べたら、大分…」
そう苦笑いして言葉を濁す彼女。
彼女の言葉の濁し方が面白くなって笑ってしまう。
「俺は確かに先輩達に比べたら、まだまだ若輩者だな。」
「そうそう。ヨンジュンはまだまだ若いんだから、大丈夫だよ。」
そう言って笑うAさん。
なんとなく、あぁ聞かれてたんだ。と思う。
少しだけ弱音を吐かせて欲しい。
「ちょっとだけ、疲れました。」
そう口にしてたらなんだか止まらなくなって誰かに言うつもりの無かった漠然とした不安だとかを話していた。
静かに俺を話を聞いてくれるAさん。
彼女の醸し出す雰囲気が柔らかいからか、彼女は出会った当初からとても話しやすい。
「そっか。うん、疲れたら休んで良いんだよ。」
ポンと自身の頭に彼女の手が乗った。
優しく頭を撫でられた。
「ヨンジュンは今までずっと頑張ってたんだから、ね？」
優しい雰囲気でそう言われ、心が温かくなる。
ほんのちょっとのことなんだ。
本当に些細なこと。
彼女はこの少しの時間で俺の疲れた体や心を癒やしてくれた。
Aさんはたまにこうして声をかけてくれる。
彼女に気にかけて貰えるだけで俺は…。
…
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作者名：ちな
| 作成日時：2023年7月10日 21時
