291.喜ばしいこと ページ41
▽
「ちょっと出てくるね。」
遅い朝食を食べ終わった後、ジスはそう私に声をかけて出掛けた。
彼は連休をもらったと言ってはいたけれど、自分の事務所に顔を出すのか、それとも身体を動かしに行ったのかもしれない。
彼は家に来てからずっと私の傍を離れなかったから…。
私もいい加減、自宅待機も飽きてきたんだよなぁ。そう思いながらも、ジョングクのお許しがなければ、外に出られないわけで…。
もし、私が自分の判断で外に出てなにかに巻き込まれでもしたら、私を自宅待機にした意味がなくなってしまうもんね。
シアからの連絡では"スカウト立ち会いのもと、例の彼女は事務所をクビになった"みたい。
「スカウト立ち会いのもと、ねぇ」
小さく呟く。
なら、彼女はもうこの業界には居られないだろう。
事務所に所属していなければ仕事はまわってこない。
当たり前だがこの業界はシビアなんだ。
せっかく、ソロアイドルになったのに、彼女は何をしたかったんだろうか？
私は他人の思考が読めるわけもないので、考えたってわからないけれど…。
はぁ、とため息を付けばスマホが震えた。
「あ、ジョングク？」
ジョングクからのカトク。
"ヌナ、多分もう大丈夫だよ。"
彼は"多分"と言っているけれど、彼がそう言うなら"確実に"大丈夫なんだろうな。
常にジスが居たし出掛けることもなかったから、休暇って感じじゃなかったけど、まぁ、仕事に復帰できるのは喜ばしいことだよね。
ジョングクからOKでたからって明日いきなりは復帰できないかもだけど、ちょうどジスもでかけてるし、復帰準備しなきゃね。
ちょっと出て来ると言っていたジスは本当にすぐに帰宅した。
本当にちょっとだな。なんて思う。
「ただいま」
ぎゅっと私を抱きしめる彼に
「おかえり」
と返しながら、スタッフ達と連絡を取っていたスマホをテーブルに置く。
「…お仕事再開するの？」
「うん、明後日から復帰できそうなんだ。」
「そんなに嬉しそうに言わなくても…」
ジスは不満気に何かを小さく呟いた。
「ん？」
「折角、二人きりの世界だったのになぁ。仕方ないか。」
二人きりの世界ってなんだ？
そう考えていたら、
「忙しくなる？」
「まぁ、うん。」
「ヤダなぁ。」
そう呟いたジスが幼く見えた。
まるで夏休みが終わる時の子供のようで、笑った。
「なんで笑うかなぁ。僕は真剣なのに…」
そう言うジスはとても不満げだった。
…
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作者名：ちな
| 作成日時：2023年7月10日 21時
