目にしたモノ ページ7
人混みを掻き分けながら、いつもとは違う路線に乗り込む。
仕事帰りでお疲れなOLさん。
今からコンパにでも行くのか、賑やかにガールズトークをしている女子大生。
満員電車なんて慣れっこだけど、いつもと違った心情で乗り込んだせいか、やたらと心臓が煩い。
ケータイを弄ったりして気を紛らわそうとしてみたけど、それも上手くいかないのは、電車の中吊りにある和達の広告のせいだ。
人波に押されながら降り立った、数ヶ月前までの最寄駅。
改札をくぐって外へ出ると、見慣れた景色が一斉に広がった。
駅前の24時間の大型スーパーの前を横切って、大通りを歩いて行く。
コンビニや公園の前を通り過ぎた時、最後に和に会った日のことを思い出した。
透と喧嘩して、冷静になりたくて飛び出したマンション。
でもあんな夜中に行く所なんてなくて、この公園で1人ぼんやりと月を眺めていた。
もう自分では抑えきれないくらい、和への想いが大きくなってて。
待ち合わせをしたイルミネーションツリーの前。
手を繋いで歩いた街並。
そして頬にふれた、和の手のぬくもり。
その日にあった出来事が、一つ一つ鮮明に思い出される。
あたしの姿を見つけた瞬間、血相を変えて駆け寄って来た和。
涙を拭ってくれた手のぬくもりは、今でも忘れられない。
公園を過ぎて直ぐの、大きくそびえ立つタワーマンション。
心境の変化があるせいか、妙に緊張していて、なかなかエントランスに入ることが出来ない。
意を決して鳴らしたインターフォン。
1回………2回…………。
返って来たのは家主不在を意味する無言の応答だけだった。
連絡もせずに突発的に来てしまったんだからしょうがない。
約束をしている訳でもなければ、和はあたしが日本に居るとは思ってないんだから。
エントランスから出て、集合玄関から地下ガレージの入口に沿って綺麗に整備してある花壇。
その片隅。
ガレージとは距離のある死角スペースで和を待つ。
この距離からだったら他の人に見つかることもないだろう。
小さい頃からずっと見てきた和だから。
あたしだったらこの距離でも和のこと見つける自信があったんだ。
でも………。
これ程自分の自信を恨んだことは、この先きっともうない。
和の帰りを待ち始めて2時間後。
地下ガレージに入って行った1台のタクシー。
その中に居たのは、和と寄り添うように座った綺麗な女性。
まるで映画のワンシーンを見ているかのようだった。
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作者名：凛
| 作成日時：2013年11月27日 11時
