キミはボクの宝物 vol.3 【kazunari.N】 (ページ21)

今日:14 hit、昨日:1 hit、合計:495,943 hit

違う人ページ21

真「この上にさ、ラウンジがあるんだ。続きは上で飲み直しながら話そうよ」

食事が一通り終わった時、シンくんがそう言って場所を移した。

最上階にあるラウンジ。

中央にバーカウンターが大きくあって、夜景の見える窓際に沿って長く続くカウンター。

その周りに点在してあるテーブル席やソファ席には、何ヶ所かリザーブのプレートが置いてあった。

ボーイさんに窓際のカウンター席に案内され、2人並んで座る。

真「俺、何飲もっかなー」

こんなにオシャレなお店なのに、いつものお店と同じようなノリで言うシンくんに、思わず笑みが溢れる。

いつの間にか、ホテルに着いた時の緊張感は薄れていた。

『なんか……、シンくん似合うね。こういう場所……』

あたしの言葉に、シンくんは優しく笑う。

真「そんな慣れてないよ？こういう場所(笑)」

大学時代の先輩との付き合いで会員になったこのホテルは、会社の接待で何度か来たことがあるものの、個人で利用するのは初めてだそう。

無邪気な笑顔を見せながら説明してくれたシンくんに、少し安心した。

2杯目のカクテルがなくなる少し前。

真「Aちゃん……。聞いて欲しいことがあるんだ……」

無邪気な笑顔から一変して、真剣な男性の表情。

心臓がドクンと波打つのがわかる。

この先に言われること。

それはまったく予想していなかった訳じゃなくて。

何となくわかっていたけど気づかないフリをしていた。

真「俺とさ………、付き合って欲しい」

ビー玉みたいなキラキラした瞳。

その瞳の中に映し出される、あたしの困った表情。

体が鉛のように重たくなって、身動きが取れない。

さっきまで聞こえていたソファ席に座った団体客の賑やかな話し声も、今のあたしには全く聞こえなかった。

真「直ぐに返事が欲しいとは言わないから……。ただ、前向きに考えて欲しいんだ」

何か言わなきゃ………。

そう思っていても、思うように口唇が動いてくれなくて。

静かに揺れるシンくんの瞳を黙ったまま見つめることしか出来ない。

真「そんなさ……、泣きそうな顔しないでよ……(笑)」

そう言いながら握られた右手。

零れ落ちた、一筋の涙。

小さい頃から一番欲しかった言葉をくれた、和とは違う人。

和と再会してしまったからだろうか。

あたしに見せてくれる和の笑顔が、頭から離れてくれない。

握られた右手を引き寄せられそうになった瞬間。

背後からあたしの右手を、誰かが掴んだ。