夜景の見える場所 ページ20
二葉さんに連れて行かれた場所で知り合った濱崎さん。
話を聞くと年齢も一緒で、地元も隣町の人だった。
基本人見知りで愛想の良い方じゃないけど、お酒を飲みながら交わす会話は割と心地良く、帰り際には連絡先を交換した。
その日以来、あたしの生活に増えた出来事。
鬱陶しくない程度のメールと電話。
適度に誘われる食事。
“濱崎さん”と呼んでいた名前も、いつしか“シンくん”と下の名前で呼ぶようになった。
人生には色んな別れと出逢いがある。
それは今まで生きてきた30年間の中で、幾度となく経験してきた。
和とのことは、別れなんかじゃない。
ただ、あたし達の未来への道が交わることがなかっただけ。
あたし達はきっと、こうなる運命だったんだ。
シンくんからのお誘いや連絡に、何も感じてないわけではない。
30にもなったイイ大人が、男性から好意的に誘われてるのにも関わらず何も気づかないわけがない。
大手企業で仕事もバリバリ出来て、先輩や上司からも一目置かれているシンくん。
尊敬するところもあれば、憧れるところもあって。
あっという間にシンくんの世界に引き込まれてしまってる感覚。
だからあたしは流れに身を任せて、心の赴くままに行動してみようと思った。
こうやってまた、和の居ない新しい生活が少しづつ動き出して行く。
シンくんとの4度目の食事の日。
指定された場所は芸能人も利用するような、一般人のあたしにとっては敷居の高い会員制レストランだ。
定時で終われる予定が残業になり、会社を出たのが待ち合わせ時間の30分後。
1時間前にシンくんには連絡を入れておいたが、“先に飲んでるから、気をつけておいでね”と言われた。
化粧を直して身支度を整えて、急いでセキュリティーゲートを潜る。
外に出た時には、空は既に真っ暗だった。
向かった先は、会社から1駅分もないくらいの距離にあるラグジュアリーホテル。
会社の接待でも来たことがないこの場所は、あたしには不釣り合いじゃないだろうか。
あたしの不安を他所に、エレベーターは静かに上昇。
ものの数秒で到着したフロア一面に広がる店内に、思わず言葉を失う。
「ご予約のお客様でいらっしゃいますか？」
『待ち合わせをしてるんですが……』
店員さんに連れて来られた場所。
そこにはパノラマ状に広がった、色とりどりの宝石をひっくり返したような夜景。
ふと思い出したのは、あたしを優しく抱きしめてくれる和の笑顔だった。
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作者名：凛
| 作成日時：2013年11月27日 11時
