彼女の存在 ーside Nー ページ16
『さっきまで、櫻井さんと一緒だったの。別にイイよね？』
こんなところに何も言わずに連れて来られたら、どう考えたって嫌とは言えない。
今日はどうしても2人で話したかったのに、オレの意気込みはいとも簡単に崩れ去ってしまった。
翔ちゃんはオレとAの空気を読んでか、終始困り顔。
そりゃそうだよな……。
翔ちゃんからすれば、完全に巻き込み事故だもん。
でもごめんね？
どうしてもハッキリしておきたい事があるから。
だからオレは、翔ちゃんの存在に構わず、Aに確信付いた質問をしていく。
Aはのらりくらりを躱すだけで、やっぱりコイツの真意が掴めないままだった。
“仕事もあるし……”
そう言ったけど、じゃああの時の涙は？
仕事を辞めて欲しいなんて、プロポーズの時から言われてたんだから、涙を流す理由とは到底思えない。
“あたしのワガママ”
この言葉に違和感を感じたけど、この状況じゃ聞いたところで話してくれる様子もなかったから、今日のところは諦めた。
もう少し時間が経ったら。
本当のことを話してくれるだろうか。
緊迫した状況を打破するかの様に鳴り出した着信音。
ディスプレイを見て、思わず溜息が零れる。
“今すぐ来て……。これで、最後にするから”
その言葉に、仕方なしに2人に断りを入れて出たんだ。
この時、Aがどんな思いでいたかなんて、オレにはわからない。
亜美の元へと急ぐ中。
ゆっくりと閉じた瞼の裏に浮かぶのは、あの日のオレ達。
“あたしが代わりになってあげる”
そう涙を流しながら呟いた彼女を受け入れたのは、紛れもないオレ。
抱きしめた時の感じる体温。
少し震えた口唇。
何度も何度も角度を変えて塞いでは、出来た隙間から漏れる亜美の吐息に身体が震えた。
Aはもう、一生手の届かない人。
それなら傍に居てくれると言う亜美を受け入れるのは、自然な流れではないか。
寝室に連れて行き、ゆっくりとベッドに押し倒していく。
首筋から感じる香りは、オレの好きだったモノじゃないけど。
それでもオレは、構わず舌を這わせて行った。
大丈夫。
これでいいんだ。
そう念じながら、亜美の服に手を掛けていく。
服の下から侵入させた手が、亜美の身体に触れた瞬間。
亜「かっ……ず…………」
違う。
違う……。
違う………。
自分が求めていたものとは違う声。
その瞬間、オレは壊れたオモチャのように動けなくなってしまった。
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作者名：凛
| 作成日時：2013年11月27日 11時
