おむらいすスフレ ページ10
近寄ってよくよくその姿を見つめた。痛々しい赤茶に染まった掌や、太ももの内側に付いたテーピングの後に目が釘付けになり、何も言えずに棒立ちしていた。
ようやく会えたのに、嬉しさも感動も湧いてこなかった。私が悔しさを感じている意味が、自分でわからなかった。
突然テントに人が入って来て、そのおじさんに「君、その選手の友達かな？」と尋ねられた。関係者タグもない私がなんと答えれば怪しくないかまごついていたら「ちょっと来て」とその人が私をテントの外へ呼んだ。
おじさんがテントの外で私の顔を見て、おじさんの手に握っていたものを差し出した。
「これ、あの子を運ぶとき、近くに落ちてたから拾ったんだよ。きっとポケットに入れていたのが落車のはずみで落ちたんだ」
渡されたのは、淡く褪せた紺色のお守りだった。金の刺繍が真ん中に施されている。文字が、祈りが施されている。
「彼のだね？」
交通安全、という刺繍から目が離せなくなった。
「……そうです」
声が震え、喉が信じられないくらい熱くなった。胸がいっぱいいっぱいに詰まり、肩で息をする。
「彼の、ものです」
おじさんは何度もウンウン頷いて、私にお守りを握らせた。
「よっぽど大事だったんだろうね、肌身離さず持ってたみたいだよ。これ、そばに置いててもらえるかい。私は別の仕事があるから」
私は瞳の両端から溢れ出すものをそのままにして、ゆっくりとテントの中に入った。西日がかたどる私の影が、御堂筋くんのベットに差しかかった。その影が邪魔しないよう気を張って、天井を向く御堂筋くんの横顔にファインダーを合わせる。目が涙でぼやけ、乱暴にまぶたをこすって、もう一度丁寧に標準を合わせてシャッターを切った。
傷だらけの御堂筋くんを写真に収めた。怪我はあるけど、見たところ目立って腫れている箇所や血の流れた跡はない。息を飲むと喉が鳴った。シャッターの音が喧騒を遠のかせた。テントの中は静かに静かに時間が流れていた。
「……高橋サァン」
聞き取れないくらい小さい、囁く声がはっきり耳に届いた気がした。
「はい」
私は御堂筋くんに駆け寄る。ベットのわきに置いてあった丸イスに腰掛け、リュックを足元に下ろした。
「はい、大丈夫ですか」鼻をすすり、熱い息が嗚咽になって奥歯の隙間から漏れ出る。
スーと息を吸い込んだ御堂筋くんは、長く深い息を吐いた。
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なおなお - 完結おめでとうございます。何度も読み返してます。読めて幸せでした、ありがとうございました。 (1月8日 2時) (
レス) id: 55ab2936ef (このIDを非表示/違反報告)
御堂筋クゥン推し - 素晴らしかったです (10月18日 6時) (レス) @page20 id: b81b403b28 (このIDを非表示/違反報告)
RIA__(プロフ) - 完結おめでとうございます。とても素晴らしい作品でした。2年もの長い歳月をかけて御堂筋くんと向き合い出来た心を打たれる素晴らしい作品です。この作品を読めて幸せでした。ありがとうございました…！ (2023年3月2日 22時) (レス) @page20 id: ac39c61119 (このIDを非表示/違反報告)
いと - 出来ることなら、主さんの解釈・言葉の中で生きる御堂筋くんをもう一度、どんな形でもいいので見たいです。それくらいに完成度の高い、素晴らしい作品でした。完結おめでとうございます。素敵な作品をありがとうございました。 (2023年1月17日 19時) (レス) id: 2e3d0ac53d (このIDを非表示/違反報告)
いと - 弱虫ペダルの夢小説の中で、お世辞抜きに1番クオリティ高い作品だと思います。下でも書かれてる方いますが、主さん以上に、御堂筋くんにここまで向き合って下さった作者さんはいません。もう何回も何回も読み返しています。 (2023年1月17日 19時) (レス) @page19 id: 2e3d0ac53d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：杞憂 | 作成日時：2021年2月27日 20時
