ゆりねグラタン ページ8
目をそらす彼の顔は、まんざらでもなさそうだった。
「しかし……まァ、よかったな。撮れたんじゃねぇか。いい写真」
「うん。あ、今泉くんの写真も撮れてるよ」
ほら、と言いながら私はカメラの画面に写真を映し、今泉君に一つづつ、これはいつの、どこの写真だとか説明を加えながら見せた。今泉君は小さく曖昧に相槌をして眺めていたが、何を思ったのか顔を上げて、じいっと私の顔を見ると「A」と名前を呼んだ。
「なに？」
私が首をかしげる。今泉君はいつもの難しそうな顔で黙っていたけれど、ハの字に眉を緩めて言った。
「そっちのが、いい。似合ってる」
「あ、ありがとう」
返事はなく、今泉君はまだ何か言いたそうにただ黙っていたが、口をわずかに開けた。しかし、私はそれに気づかず喋ってしまい
「あの」「お前さ」
結果、今泉君の声を遮ってしまった。変な気遣いのような間が数秒あってまた口を開いた。
「あ、ごめん」
「別に大したことじゃない。お前が言え」
「いや、でも」
「ウザいから早く言えよ」
「わ、わかったって。そやったら、うん、ありがとう」
私は持ち上げていたカメラから手を離し、視線が自然にゴールゲートに向いていた。どうしても今日の結果で気になることがあった。心臓が大きな音で胸を叩くが、なんでもない風を装って、世間話を気さくに振るつもりで、私は尋ねた。
「今泉君は最終日の今日、6位やったんやよね」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、優勝争いの中、ずっと戦い続けたってことやんな」
「ああ、広い意味で言えばそうだ」
「じゃあ、その中で……誰が一番早かった？」
今泉君はその質問にすぐには答えず、顎に手を置き、数回まばたきをゆっくり繰り返しながら答えた。
「……チームとしてはダントツで箱学だ。個人でいうなら、スタート直後から箱学の新開さんには圧倒されたし、金城さんと福富さんの走りは戦略も含めてバケモノ級だ。挙げだしたらきりがない。だが、誰か一人、オレが挙げるとするなら」
「挙げるとするなら？」
「御堂筋、という男だ」
目尻から熱が沸き上がる。私は冷静さを意識して、次のタレコミを引き出すように質問を続けた。
「御堂筋くん、どこかでリタイアしたの？」
「ああ。途中で力尽きて、落車した」
「どこあたりで落車したか知ってる？」
「知ってる。確か……富士あざみライン唯一の大下りを越えたあたりだ。ふたたび登りに入ったところでヤツは……」
「そのあと事故は？」
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なおなお - 完結おめでとうございます。何度も読み返してます。読めて幸せでした、ありがとうございました。 (1月8日 2時) (
レス) id: 55ab2936ef (このIDを非表示/違反報告)
御堂筋クゥン推し - 素晴らしかったです (10月18日 6時) (レス) @page20 id: b81b403b28 (このIDを非表示/違反報告)
RIA__(プロフ) - 完結おめでとうございます。とても素晴らしい作品でした。2年もの長い歳月をかけて御堂筋くんと向き合い出来た心を打たれる素晴らしい作品です。この作品を読めて幸せでした。ありがとうございました…！ (2023年3月2日 22時) (レス) @page20 id: ac39c61119 (このIDを非表示/違反報告)
いと - 出来ることなら、主さんの解釈・言葉の中で生きる御堂筋くんをもう一度、どんな形でもいいので見たいです。それくらいに完成度の高い、素晴らしい作品でした。完結おめでとうございます。素敵な作品をありがとうございました。 (2023年1月17日 19時) (レス) id: 2e3d0ac53d (このIDを非表示/違反報告)
いと - 弱虫ペダルの夢小説の中で、お世辞抜きに1番クオリティ高い作品だと思います。下でも書かれてる方いますが、主さん以上に、御堂筋くんにここまで向き合って下さった作者さんはいません。もう何回も何回も読み返しています。 (2023年1月17日 19時) (レス) @page19 id: 2e3d0ac53d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：杞憂 | 作成日時：2021年2月27日 20時
