てばもとパエリア ページ3
「帰ってくるんだ、今すぐに」
私はありったけの力を腹に込めて言った。
「帰らへん」
間髪入れず、父が怒鳴る。
「帰ってきなさい」
私は立ち止まっていた足を前に出して、登山客や観光客の賑わうバスロータリーに歩み出した。こんな風に父に言い返したのは初めてだった。
「帰らん」
「帰りなさい！」
「帰らん！」
「帰ってこい！」
「絶対！絶対！帰らへん！写真撮ることは、絶対にやめへん！」
私は電話を切り、前を向いて、駅員さんのところへ駆け出した。富士の５合目まで行くバスがある、と教えてもらった。駅員さんは親切にバス停の道順までも指し示して説明してくれた。
「でもね、ついさっきバスが出たところでね。次のバスは、けっこう後だけど大丈夫？」
御堂筋くんのゴールする瞬間は、御堂筋くんのロードに乗る姿は、もう絶対に見れないかもしれない。
「大丈夫です」
でもここまで来たら引き返すつもりはなかった。また携帯の着信音が聞こえた。今度はちゃんと相手を確認してから耳に当てた。
「もしもし」
「もしもしAちゃん？大丈夫！Aちゃん、間に合うよ！」
幹ちゃんの力強い声で、喉の奥が熱くなった。
「LINEさっき読んだの……連絡遅くなってごめんね。いまどこにいるの？インハイのゴール前行きのシャトルバスがね、５合目の臨時駐車場から出てて、今から駅から5合目まで向かったとしても、最終便のシャトルバスには間に合うと思う！大丈夫、ゴールにまだ間に合うよ」
きっぱりと言い切る言葉に、私は思わず目を細めてもう一度富士のてっぺんを見つめた。スカイブルーの絵の具を塗りたくったような青空を背景に、銀泊を貼り付けたような山岳の姿が、くっきりとたたずんでる。
こんな景色見たことない。網膜に焼きつける。カメラで撮りたいのは山々だったが、私はバス停を探しに足を動かした。
「ありがとう幹ちゃん。着いたらすぐに連絡する」
「うん、待ってるねAちゃん」
バス停を見つけ出した私は、駅員さんに教えられたバスに乗り、富士の５合目にある臨時駐車場に到着した。標高の高いせいで呼吸が苦しい。しかしそこから見下ろす景色を前にすると、思わず感嘆のため息が漏れた。
「うわぁぁぁ」
急いで首からカメラを下げ、目下に広がる眺望に向けてレンズを構える。シャッターを押すと、たちまち懐かしい爽快感が脳で弾け、全身に染み渡った。どんどん熱が頭に集まって、眼球が冴えていく。
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なおなお - 完結おめでとうございます。何度も読み返してます。読めて幸せでした、ありがとうございました。 (1月8日 2時) (
レス) id: 55ab2936ef (このIDを非表示/違反報告)
御堂筋クゥン推し - 素晴らしかったです (10月18日 6時) (レス) @page20 id: b81b403b28 (このIDを非表示/違反報告)
RIA__(プロフ) - 完結おめでとうございます。とても素晴らしい作品でした。2年もの長い歳月をかけて御堂筋くんと向き合い出来た心を打たれる素晴らしい作品です。この作品を読めて幸せでした。ありがとうございました…！ (2023年3月2日 22時) (レス) @page20 id: ac39c61119 (このIDを非表示/違反報告)
いと - 出来ることなら、主さんの解釈・言葉の中で生きる御堂筋くんをもう一度、どんな形でもいいので見たいです。それくらいに完成度の高い、素晴らしい作品でした。完結おめでとうございます。素敵な作品をありがとうございました。 (2023年1月17日 19時) (レス) id: 2e3d0ac53d (このIDを非表示/違反報告)
いと - 弱虫ペダルの夢小説の中で、お世辞抜きに1番クオリティ高い作品だと思います。下でも書かれてる方いますが、主さん以上に、御堂筋くんにここまで向き合って下さった作者さんはいません。もう何回も何回も読み返しています。 (2023年1月17日 19時) (レス) @page19 id: 2e3d0ac53d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：杞憂 | 作成日時：2021年2月27日 20時
