しらぬいサラダ ページ2
カバンの中に水を入れようとして、タオルに触れた。そのタオルは御堂筋くんから借りた、返すと約束したタオルだった。私は深呼吸をして、また人々の波に飛び込んだ。
「ここから富士山まで、いけますか？」
駅員さんに尋ねると、少し迷惑そうに目を歪めてから私に確認する。
「富士山というのは、御殿場駅に行かれたいということですね？」
「はい」
「その荷物で？」
「はい」
身軽な私が、不審に見えたのかさらに目を険しくさせた。朝の多忙な時間だからか深く問うことはなかったが、返答は必要最低限でそっけなかった。
「御殿駅は新幹線でもいけます。名古屋行きのこだまに乗ってJR東海道本線の富士行きにご乗車ください。沼津でJR御殿場線の国府津行に乗りかえて御殿場駅に着きますよ。詳しくはスマホで調べてみてください」
私の後ろに並んでいたおばさんが呼ばれ、体が脇へ押しのけられる。駅の中でも人の少ない、柱の近くへ逃げた。言われた通りに検索すると、確かにここからゴールに向かう道筋はあった。
幹ちゃんにLINEを送る。
「もし今、新横浜からインハイのゴールまで向かったとしたら、間に合いますか？」
幹ちゃんの返信を待たずに、私は新幹線のホームを進んだ。駅の人数は心なしか量が減った。時計を見れば、10時前。子供の私でもわかった、ラッシュは終わったんだ。
私は道に迷いながらも新横浜から乗り継ぎを2度成功させてJR御殿場線の電車に乗って御殿場駅に降り立った。ここからはまた調べる必要がある。国道を通るバスがあるらしいが、どのバスにいつ乗り込めば『インターハイのゴール』へ着くか分からなかった。
屋根より高い富士の頭を見上げ、息をついていた。車内は涼しかったのに、出た途端、日照りと熱射が降り注いだ。半袖から伸びる腕に汗が流れ、前髪も濡れて額にくっつく。念のために持ってきた水筒の中身は、すでに空っぽ。スマホには誰からも返信はない。スマホをポケットにしまおうとした途端、震えた。幹ちゃんかも。慌てて、発信者もよく確認しないまま電話に出た。
「今どこにいる？」
父の声だった。
「急にいなくなって、どうしたんだ。どこにいるんだ。母さんも病院に勝手に行ってしまうし。何をやってるんだ、お前たちは」
その絞り出すような声が、私の胸をざわつかせた。
「ごめんなさい」
「それで、どこなんだ今」
「……富士山」
「なんでだよ」
父の怒った声は、本当に久しぶりに聞いた。そういえば父はあまり私を叱らない。
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なおなお - 完結おめでとうございます。何度も読み返してます。読めて幸せでした、ありがとうございました。 (1月8日 2時) (
レス) id: 55ab2936ef (このIDを非表示/違反報告)
御堂筋クゥン推し - 素晴らしかったです (10月18日 6時) (レス) @page20 id: b81b403b28 (このIDを非表示/違反報告)
RIA__(プロフ) - 完結おめでとうございます。とても素晴らしい作品でした。2年もの長い歳月をかけて御堂筋くんと向き合い出来た心を打たれる素晴らしい作品です。この作品を読めて幸せでした。ありがとうございました…！ (2023年3月2日 22時) (レス) @page20 id: ac39c61119 (このIDを非表示/違反報告)
いと - 出来ることなら、主さんの解釈・言葉の中で生きる御堂筋くんをもう一度、どんな形でもいいので見たいです。それくらいに完成度の高い、素晴らしい作品でした。完結おめでとうございます。素敵な作品をありがとうございました。 (2023年1月17日 19時) (レス) id: 2e3d0ac53d (このIDを非表示/違反報告)
いと - 弱虫ペダルの夢小説の中で、お世辞抜きに1番クオリティ高い作品だと思います。下でも書かれてる方いますが、主さん以上に、御堂筋くんにここまで向き合って下さった作者さんはいません。もう何回も何回も読み返しています。 (2023年1月17日 19時) (レス) @page19 id: 2e3d0ac53d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：杞憂 | 作成日時：2021年2月27日 20時
