かくせいを崇めた ページ10
むしろ携帯で知らせを受けた時の方が混乱していた。今はもう、おばあちゃんのことが大事なはずなのに、まるで不安がなかった。
外の街灯の光が、窓から差し込んでカーペットに太い線を描く。その長方形が時折、風で揺れた木の陰によって乱され、消えたり満たされたり形を変える。
おばあちゃんが大事なのに、私は御堂筋くんのことを考えていた。
「惚れてるからだろ、そいつに」
さっき言われた今泉くんの言葉が、耳の奥から聞こえてくる。
好きなのかな、御堂筋くんのこと。
言われてみると、なんだかそんな気になってくる。言われて初めて、はっきり自覚した。私は惚れてるのかも。
そう考えたら気が楽になった。『好き』ということでいいや。
「尊敬とか憧れで、そこまで思わねーよ。お前がウザいのは、惚れてるからだろ」
外の物音に混じって思い出すのは、今泉くんの声だった。
「確かに……」
独り言が部屋の空気に吸い込まれていく。
認めれば楽なのに、自分はなんで今まで否定し続けたのだろう。
「ん……ヒッ……ク………」
なんで、好きって気づいただけで、こんなに虚しいんだろう。勝手に口から嗚咽が漏れ、気づけば涙がボロボロこぼれた。私は多分、御堂筋くんが好きだ。
気づくのが怖いかった？振られると分かっていた？嫌われたくなかった？邪魔したくなかった？
「ボクは飾りにこだわるヤツが邪魔で仕方ないんやよ」
急に、あの日の御堂筋くんの言葉が脳裏をよぎった。
「忘れてたんかなぁ？」
忘れへん。
あの時、放課後、バス停で言われたことは、一言一句忘れるつもりはなかった。
「ほんまの自転車は食うか食われるかの世界。そこに青春ドラマはない。がんばったで賞もない。一握りの強者が生き残るスポーツや」
そうやって言われた時、御堂筋くんの頬を汗が伝っていた。流してる汗や、大きく開いた口、前のめりに垂れる腕、恐々とした目元。そして、そこかしこに見える傷。擦り傷だけじゃない。目の下にクマがあった。肘や腕にはあざがあった。膝にはかさぶたがあった。親指ぐらいのかさぶたや、もう治りかけの薄茶色のかさぶた。見えるところにたくさん傷があった。近づいてもらって、その時になって、初めて気づいた。
「ええか。教えたるわ。『仲間のために』『夢のために』。キミィらはみんな、甘い言葉で手短かに満足したいだけなんや」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 136人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
niko(プロフ) - 続き楽しみです！！ (2021年2月24日 18時) (
レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました！！面白いです！！！応援しています！ (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました！応援しています！次の更新楽しみにしています頑張ってください！ (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます！無理せず頑張ってください！ (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています！ (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：杞憂 | 作成日時：2020年10月9日 22時
