とむらいのカメリア ページ9
「いや、それがずっと留守電で。入院のこともそうだが、保険の話もしたいんだけど」
「お母さん、この時間はまだ仕事やよ。あの人深夜にしか帰ってこぉへんから」
「そうなのか」
「うん。それと電話するなら夜より昼がいいかも。とりあえずメールで『あとで電話する』って言っとけば、流石に昼なら時間作ると思う」
「ごめんな、A」
「えっ」
振り返ると父が言うので、戸惑った。
「何が?」
私の問いかけに、父の目が泳ぐ。きっと癖で謝っただけで、意味はない。私がよくやることだから手に取るように分かっていた。それでも尋ねた私は性格が悪い。
「……だって、お前最近友達ができて、遊ぶ約束とかあったんじゃないか」
「ないない。ていうか今はおばあちゃんの緊急事態やから、そっち優先したいし」
私はさっぱりと言い放ち、時計を見た。
「だが、お前……やりたいことあるだろう色々」
「だから、ないって」
「カメラも?」
喉から空気が引っ込んだ。父が寂しそうに眉を下げる。
「前からたくさん撮ってたじゃないか。今も続けてるんだろう?」
目の奥がぶれ、喉が焼けるように熱くなる。
「あはは」乾いた笑い声を出して、手を振った。
「いや、実は壊れちゃったんよ、あのカメラ」
「そ、そうだったのか。すまない」
「ええねん、別に。気にしてないし」
「そうなのか?」
意外そうに目を張る父を誤魔化すため、私は頬をかいて見せた。こういう時の言葉は、準備したようにスルスル出て来る。
「うん、もう全然。最初はショックやったけど、今は落ち着いた。むしろタイミングよく壊れてくれて良かったくらいやと思ってる。だってカメラって言うても趣味やで、趣味。カメラマンになるんじゃあるまいし、時間あるときにやるくらいが丁度ええって」
「あんなに夢中だったのに?」
「中学生の時はそうやったけど、やらなあかん事がある以上、カメラなんて後回しにしなあかんやん?」
「……そうか」
納得したような、それでもどこかやりきれない顔だ。
私は鏡を見ているようで、辛くなった。
「じゃあ私お風呂入ってくるわ。明日の朝とかに、京都行く日のこと話し合おう」
「そうだな。今日はもう遅いし、そうしよう」
父はいつもの穏やかな笑みを浮かべ、ダイニングから去る私を見送った。
自分の部屋に戻った瞬間、電気をつける暇もなく、足の力が抜けてその場に腰をおろす。
頭がうまく動かない。大好きなおばあちゃんが危ないのに、全然動揺していない。
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時