検索窓
今日:23 hit、昨日:17 hit、合計:20,672 hit

とむらいのカメリア ページ9

「いや、それがずっと留守電で。入院のこともそうだが、保険の話もしたいんだけど」

「お母さん、この時間はまだ仕事やよ。あの人深夜にしか帰ってこぉへんから」

「そうなのか」

「うん。それと電話するなら夜より昼がいいかも。とりあえずメールで『あとで電話する』って言っとけば、流石に昼なら時間作ると思う」

「ごめんな、A」

「えっ」

振り返ると父が言うので、戸惑った。

「何が?」

私の問いかけに、父の目が泳ぐ。きっと癖で謝っただけで、意味はない。私がよくやることだから手に取るように分かっていた。それでも尋ねた私は性格が悪い。

「……だって、お前最近友達ができて、遊ぶ約束とかあったんじゃないか」

「ないない。ていうか今はおばあちゃんの緊急事態やから、そっち優先したいし」

私はさっぱりと言い放ち、時計を見た。

「だが、お前……やりたいことあるだろう色々」

「だから、ないって」

「カメラも?」

喉から空気が引っ込んだ。父が寂しそうに眉を下げる。

「前からたくさん撮ってたじゃないか。今も続けてるんだろう?」

目の奥がぶれ、喉が焼けるように熱くなる。

「あはは」乾いた笑い声を出して、手を振った。

「いや、実は壊れちゃったんよ、あのカメラ」

「そ、そうだったのか。すまない」

「ええねん、別に。気にしてないし」

「そうなのか?」

意外そうに目を張る父を誤魔化すため、私は頬をかいて見せた。こういう時の言葉は、準備したようにスルスル出て来る。

「うん、もう全然。最初はショックやったけど、今は落ち着いた。むしろタイミングよく壊れてくれて良かったくらいやと思ってる。だってカメラって言うても趣味やで、趣味。カメラマンになるんじゃあるまいし、時間あるときにやるくらいが丁度ええって」

「あんなに夢中だったのに?」

「中学生の時はそうやったけど、やらなあかん事がある以上、カメラなんて後回しにしなあかんやん?」

「……そうか」

納得したような、それでもどこかやりきれない顔だ。
私は鏡を見ているようで、辛くなった。

「じゃあ私お風呂入ってくるわ。明日の朝とかに、京都行く日のこと話し合おう」

「そうだな。今日はもう遅いし、そうしよう」

父はいつもの穏やかな笑みを浮かべ、ダイニングから去る私を見送った。
自分の部屋に戻った瞬間、電気をつける暇もなく、足の力が抜けてその場に腰をおろす。

頭がうまく動かない。大好きなおばあちゃんが危ないのに、全然動揺していない。

かくせいを崇めた→←いみ枝にはトドメだ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (68 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
136人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。