いみ枝にはトドメだ ページ8
「せいぜい嫌われるなよ」
「嫌われてはない、はず。……『嫌い寄りの普通』って言われただけで」
「それは実質、嫌われてるだろ」
喉を鳴らす今泉君は、それでも前方を向いたまま腕を組んでいた。
「ほとんど振られてるな」微かに今泉くんの唇が横に伸びる。
「そんなはっきり言わんでも……」
会話はそれを目処にフェードアウトしていき、それほど背の高くない古ぼけた父のアパートに着くまでどちらも窓の外を見ていた。
アパート名が刻まれたアルミの看板が建つ扉の前で、
「それじゃ……あの、今日送っていただいてどうもありがとうございます」
と私が腰を折ると今泉君は「おう」と小さく答えた。すぐに車に乗り込まずに、口をつぐんで私を見ていた。
「高橋A」
今泉くんは名前を呼んだにもかかわらず、その後もなかなか話し始めなかった。肌寒い風が道路にピューっと吹き抜け、手にさげた雑誌の入った袋をガザガザと揺らす。
「……悪かったな」
「え?」
風の笛音に紛れて、今泉君の小さな声が聞こえたかと思うと、「じゃーな」と今泉くんは踵を返して、私の疑問を訴える視線も物ともせず車へ乗り込んだ。
赤いランプを灯した車の姿が遠ざかっていくのを、少しあっけにとられながら見送る。肩の力が少し軽くなった気がした。
◯◯◯◯◯◯
「何度も施設を抜け出そうとしてたみたいだ。それでついに、今日、階段を一人で降りて、怪我をしたらしい」
部屋に着いて手を洗った後、ダイニングテーブルに向かい合って座ったとたん、父が悲しそうな目で私を見つめ返した。
「一応、病院で見てもらって、その怪我はどうもなかった。ただ、」
家の外で犬が遠吠えしている。
父が言葉を詰まらせる様子は、なんだか先ほどの今泉君と似ていたけれど、喋り始めた時の声は父の方があっさりしていた。
「肺の近くに大きな腫瘍があったらしい」
詳しい検査、数日間の入院。大きい病院で、万が一の入院。8月から、老人ホームの施設の方とは話がついてる。断片になって片耳に届き、すぐ反対側の耳から出ていった。
必要事項を連絡し終えた父は、必要以上に悲しそうな顔を作って、私の顔をのぞき込みながら「大丈夫か?」と尋ねた。軽く顎を引くと、父は押し黙った。
「……じゃあ、また京都に行く?入院の準備しなあかんよね」
「え、あ、そうだな」
「行くなら8月の頭からの方がええかも。丁度、お父さん仕事休みやし。あっちにはお母さんしかおらへんし。お母さん電話でた?」
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時