検索窓
今日:10 hit、昨日:17 hit、合計:20,659 hit

らいめいが脅した ページ7

対向車線のライトが窓から横切って、今泉くんの顔を照らす。表情は思った以上に柔らかだ。

「私も、別に、ほ、本当は小うるさいこと言うつもりなかってん。むしろ静かに見守るつもりやった。『当日、頑張れ』って。『応援してる』って伝えたかっただけやねん。せやけど、変なこと口走ってもて」

「変ではないだろ。うざいけど」

「そ、そりゃ……うざいよなぁ」

「自覚あったんだな、お前」

「えっと、あはは……うん。自分でも言うつもりなかったんやけど……なんでか、ただの新聞部やに……こんなこと気にして、口出しして」

分(ぶ)をわきまえれば良かったのに。カッコ良くて努力家で、誰より速い御堂筋くんにおせっかいを焼くほど、あの時の私は思い上がっていた。

「ホンマ、なんであんなこと言うたんやろ」

ほとんど独り言になった呟き。不意に、猛スピードのトラックが今泉君の横を通り過ぎた。「ビー!!」と外側でクラクションが響く。

「惚れてるからだろ、そいつに」

今泉君の表情はあっけらかんとしていた。
また車内が静かになった。

「えー……あはは。今泉君、それはない……ないです。憧れてるだけです」

「尊敬とか憧れで、そこまで思わねーよ。お前がウザいのは、惚れてるからだろ」

「それはない、と思う。多分」

「多分かよ」

青信号になり、ふたたび列が流れ出す。ビル群を囲うように住宅街の屋根が軒を連ねる景色が前方に広がった。
ちょうど車が駅前を通り過ぎた頃、今泉くんは顔の向きを前に固定させて「おい高橋」と声をかけた。

「はいっ」

「はい」

「こっちじゃない、高橋の方だ」横目にこちらを一瞥する今泉くんは、小さく鼻を鳴らした。どうやら本人の中で下の名前を呼ばないときは、お呼びじゃないらしい。

「そこの本屋、寄ってくれ」

車は今泉くんの指示通り、駅ビルの近くに構えられた本屋の近くで停車した。今泉君はここで待つよう伝え終えると、返事も待たずに運転手さんと私を車内に残し、ほんの数分で店の袋を手にしたまま戻ってきて

「今月号の『サイクルタイム』だ。やるよ」

とその袋を差し出した。なかなか受け取ろうとしない私に、今泉君は重ねて言う。

「とにかく読め。途中のインタビュー記事、お前、絶対読めよ」

お金のこととか、突然のことであるとか、今日会ったばかりであるとか。様々な言い分が喉元まで湧き上がったけど、寸前のところで飲み込んで「ありがとう」と言った。

いみ枝にはトドメだ→←きゃくをとかく責めた



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (68 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
136人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。