きゃくをとかく責めた ページ6
「やっぱり選手は、勝って終わりじゃない……ですね。勝つまでにたくさん怪我して骨折して、それで」
「だとしてもそれはお前が心配することじゃないだろ」
ぴしゃりと言われてしまって、もう何も言えなくなった。
「そうですよね……」
私の相槌を最後に会話が終わった。
膝の上で両指を互いに組み、小指の先を見つめた。また重苦しい沈黙が漂っていた。
「おい、高橋」
「はいっ！」
「はい」
とっさに顔を上げると、今泉くんは前を向いていた。
「高橋」
「……」
「……」
しばし沈黙が流れ、私は固唾を飲んだ。今泉君はこっちを向いていない、でも運転手さんは返事をしない。私も口を結んだままだ。車内が緊張で静まり返った。
「おい」
それは痺れを切らすような声で、恐る恐る私は自分を指さす。
「私ですか？」
「……お前、下の名前は？」
「Aです」
ふん、と鼻を鳴らす音が聞こえた。ただならぬことでも言われるのだろうか、と不安がこみ上げてきて体は固くなる。
「高橋A、『憧れの人』ってやつにもその質問したのか」
事務的な口調とは反して、内容は私への興味がにじんでいるようだった。
「あ……うん」拍子抜けて答えたせいで、声が掠れ、まるでため息をつくような言い方になった。冗談めかす声を作って付け足す。
「『わからんやつが口出すな！』って怒られたんやけどね」
「だろうな」
怒られたというより、あれは、私が御堂筋君にそう言わせた、という方が近い。
「もう少し相手のこと信じれないのか」今泉君は私の方を見ないで言った。私も正面の座席シートに向かって喋った。
「信じてるつもりやったんやよ……。インハイだって、絶対勝つって言うたから。信じてたんやけど、なんか、話聞いたら、勝手に口が動いて、違くて」
「待て」
赤信号だった。
車が止まって、体ごと後ろに揺り戻される。
「インターハイ、そいつも出るのか」
車は長い列の中で完全に止まり、空気の詰まった耳にカチッカチッカチッとウインカーのくぐもった音だけが入ってくる。
「オレから言わせれば、そいつがそう言うのは当然だな」渋滞のなかで車が少し動く。
「……オレたちは遊びでやってるわけじゃねーし、練習は一回一回が貴重だ。ましてやインハイ前はなおさら神経尖らせてる。なんせ相手は全国だからな。その時期に、『怖くないの』と言われれば、今さらすぎて、切れるぜ普通」
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niko(プロフ) - 続き楽しみです！！ (2021年2月24日 18時) (
レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました！！面白いです！！！応援しています！ (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました！応援しています！次の更新楽しみにしています頑張ってください！ (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます！無理せず頑張ってください！ (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています！ (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：杞憂 | 作成日時：2020年10月9日 22時
