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けつみゃくだから悪役慣れた ページ49

母の頭にある白髪が鈍く光っていた。目元のシワが増えていた。ひどく大きなクマ、茶緑色のシミも見つけた。母の背はもう私より小さくなっていた。母さんって年、いくつだったっけ。

「この写真、撮ったの誰?」

いきなり顔を上げて母が尋ねる。母の手元に目を移すと、見覚えのある写真。

「私」

「そうやなくて、この男の子」

「御堂筋くん」

「なんやそら。駅の名前みたいやなァ」

母は「ひひひ」と少年のように肩を弾ませた。私の笑い方にそっくりだと気づいた。親子だなぁと思うと、訳の分からない涙が込み上げてきた。私はこの人の娘で、この人はおばあちゃんの娘で、もうどんなに嫌がっても同じになるように出来ている。

「母さん」

私が呼びかけると、「なに」とそっけなく母は答えた。

「母さんって、なんですぐ怒るん?」

「怒らせるからやろ」

「寂しいから怒ったはるん?」

「……誰が、そんなこと言うた?」

「おばあちゃん」

拗ねた子供みたいに口を尖らせ、母が遺書を机に放つ。写真が放射状に散らばって、母がそれを険しい目で見入っていた。そしてリモコンを持って、テレビの電源をつけた。大音量で「けったいな人やわ〜!!」という芸人の引き笑いが響く。

「ホンマ自分勝手で、余計なこと言う人やわ」

お互い様やないの、と言いたくなる。

「ホンマに。勝手で」

ふたたび呟き、言い含む声は、向かいに座る私に辛うじて聞こえる大きさだった。ひーっ、と引き笑いのような音が鳴る。

「まだ生きとるくせに」

テレビを向いたまま、母の頬にツーっと涙が垂れていた。

「遺書どうするん」私が尋ねると、母は不機嫌に答えた。

「返してくるわ。あんたは来たかったら来たらええし、来たくなかったらこんでいい」

「そうなん」

「ほら、わかったら寝な。これ返すから」

いつの間にか立ち上がっていた母が私の胸に、一枚写真を押し付けて自分はソファに座り込んだ。

「母さん」

「なに」

母さんは首だけをこちらに向けていた。手に遺書と写真を持って、テレビを消していた。

「母さん……離婚するん?」

「するよ」

母は冷静にそれだけ言って、首をテレビに向けた。
私は写真の中の御堂筋くんの横顔を眺めていた。
顎を上げ、彼は東の空を眺めていた。
「ふーん」と相槌を打ってからリビングを出た。
階段を登る足取りが軽い。こんなに簡単だと思わなかった。おばあちゃんのカメラを撫で、改めて状態を見る。まだ使えそうだ。手入れさえすれば、すぐにでも。

だらしがないカウボーイのように→←だつりゃくされた揺蕩う為か



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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時

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