なきっつらにアネモネ ページ47
「だから、私は御堂筋くんみたいに」
気持ちを考える余裕がなかった。息を切らして言った。決定的な言葉が、私の口から勢いで飛び出した。
「御堂筋くんみたいに上手ちゃうから」
そして、その倍の勢いと怒りが返ってきた。
「だからなんやって言うんや!」
息を切らせ、静かな怒声が続く。
「だから慰めて欲しいんか。だから優しくされたらすぐ嬉しくなってまうんか。だからすぐ満足して足を止めるんか。自分に期待してくれたばあちゃんや決意した過去の自分に恥ずかしいと思わへんのか。何が『めちゃくちゃになった』や。自分のやることの方がはるかに価値があるとなんで思わへんのや。他人にとってええヤツで、他人の顔色見て、観客の味方に徹するのは楽やろ。なぁ。でも、もし、結果を、勝利を手にしたいんなら、見たない現実見なアカンのや。深い傷を負う覚悟で前に進まなアカンのや。『戦う』ということはそういうことや、愚痴なら遺書で言えばええ。『結果がすべてではない』?結果や、勝利や。それがすべてなんや。写真やって、自転車やって、相手に一矢報い、意気地を見せつける方法は、奪われたものと、踏みにじられたプライドにふさわしい対価を勝ち取ることだけなんや。それ以外にないんや」
仕切り直すように、淡白な声に変えて御堂筋くんは続ける。声の底の高温は保ちながら。
「高橋さん、キミはボクに『ザク』と呼ばれてもなお、ボクに意地を見せェつけた。新聞部に月曜刊行を促し、部長からの口出しを断ち切った。日直日誌の制度も変えた。己ひとりの力で、自分のために他人を変えよった。あの八方美人が、臆病者の『ザク』が、己ひとりでの力で、クラスと部活の『ザク共』に勝ァちよった。『ザク』から姿を変えたキミやったら、ボクと同じ『純粋さ』をどこかに秘めとる」
そこで改めて御堂筋くんは言葉の温度を戻した。
「……はずやとほんの少し期待したボクが愚かやった。ザクは変わらんザクのままやな。ええか、二度とキミの青春ドラマの思い出にボクを巻き込まんとってや。ザクの顔色をうかがいながらザクはザクらしく暮らしたらええ。明日も、これから先も、キィミが来(こ)んくても、ボクはレースに出るし優勝できる。誰に頼まんでも、ボクの努力の結晶は、華々しい結果として残るんや」
ひとことも言い返せなかった。しばらく沈黙が流れていた。
「期待する価値もない」
喉から絞り出すように御堂筋くんは言った。
「キミなんかに期待したボクがアホやったわ」
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時