【弱虫ペダル】食ぅわれたのはボクの方(4)

ききしに勝る大惨事 ページ46

「……もう手放したわ、あれ」

やっぱり、という確信が全身から五感を奪う。

「……高橋さんも捨ててや、お守りだけちゃうで。撮った写真も記事も写真も捨てればええ。そんなもの持ってたかて、しょうがないやろ」

「うん、捨てる」

先ほど固めた意思が、私にしっかり返事をさせる。

「どぉこ居(お)るん」

「京都の家……です」

私の言葉は東京弁に寄っていた。

「御堂筋くんは？」

「……宿の前ェ」

ひとまず胸を撫でた。宿に戻ってきたということは、京都には帰ってこないということだ。
でも虚を突くように御堂筋くんが言った。

「ほんまに、やめるゥんか」

一拍遅れたものの、
「うん」
もはや私の声は揺るがなかった。

「もォ撮らへんの」

御堂筋くんの気力のこもらない声に少し動揺して、言葉を考える。

「……今までたくさん撮れたし。新聞も書けたし。おかげで友達もできたし。最近は料理作るのも、よく褒められるようになって、楽しくなってきて。写真もたまに撮れたら、それでいいかと思うんです。写真は勝負ごととは違うし、結果がすべてでもないし。もう趣味にするだけでって」

「くぅだらん」

つらつら続く私の言い分が、ピシャリと止められる。覇気が無い、感情も含まれない声だ。あるいは、含まれていても自分には理解できないと思った。

「わ、私、ごめんなさい自分の話ばっかり。御堂筋君の言いたいことはわかってる……つもりです。こんなこと……でも、わがままもやめて、頑張って、納得しなきゃいけないときだって思って。自分の勝手で傷つく人もいるし。うん、あの、だから、御堂筋くん。今まで取材に付き合ってもらって本当にありがとう、御堂筋くんはこれからも」

「なにを？」

別れの挨拶を語りかける途中だった。

「納得するて、なにを納ァ得するん」

責めるような憤りが、言葉の底流に流れていた。

「諦めなきゃダメじゃん、撮らないって」

「なんで」

「なんでって」

「なぜその必要ォがある？」

御堂筋くんが話をまぜっ返す。その意味を探ろうにも、もはやキリがない。渋々ながら私は答えを口にしていた。

「……周りが苦労して忙しくて辛いのに、みんな頑張ってるから」

「だァかァら？」

声に鋭さが増していた。
なにを言わせたいんや。分からないことが多すぎる。

「父さんも母さんもおばあちゃんも忙しい、私は支える方が向いてるんです。写真撮るのは向いてない」

売り言葉に買い言葉のように、私の声も鋭くなった。

「だから？」

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