すずろに念を起こさせる ページ45
思わず吐いた一言に自分自身驚いてしまう。だが、言った瞬間に気持ちが固まった。
「私、多分、もう部活やめると思います。私では撮りに行けへんと思います、御堂筋くんのこと。だからもし持ってたら、お願いします。捨ててく」
プツッ
言いながら、正直、自分が何をやっているのか私にもわからなかった。支離滅裂で気持ち悪い独り言でしかなかった。自分ではっきりそう思う。
「最低やん」独りで言った。目から水分が干上がり、額に汗が浮く。背筋は冷え、口端を噛んだ。
昔のおばあちゃんの言葉が次々蘇ってくる。
一度だけ、おばちゃんに聞いたことがあった。
「お母さんがすぐ怒らはるのは、なんでやの?」
私の幼い頃から、母はすぐ怒りをむき出しにする人だった。だから母は、同居するおばあちゃんの小言にもよくキレて、その度に喧嘩になった。そういうとき結局最後におばあちゃんが謝って、ことを納めていた。子供ながらにその繰り返しが不思議だった。
おばあちゃんは笑って私の疑問に
「そら、あの子寂しいからやよ」と言った。
「怒るってことは寂しいことの裏返しなんやよ」
「ぜったいちゃう!」
あの母ほど、寂しがっている姿の似合わない人はいない。でもおばあちゃんは苦笑いをした。
「子供にはわからんで、大ォきなったら分かりますやろ」
今となって、言葉が実感として身に沁みている。
父が車がないから自転車を買ったように。私はカメラが壊れたから撮るのをやめた。御堂筋くんと約束をしたのに。おばあちゃんに洋子と呼ばれたから返事をした。私の名前はおばあちゃんがつけてくれたのに。父がカレーを作ったから食べた。カレーは美味しくなかったのに。私は全部、怒れなかった。怒る前に、力が抜けてしまうようになっていた。おばちゃんに尋ねたい。怒るのも疲れてしまった人は、いったい、どないすればええの。
そのときだった。
「ピピピピピピ」
と大きな着信音が部屋に鳴り響いた。
スマホが震えていた。見覚えのある電話番号が表示されており、私は固唾を飲んだ。
右耳に恐る恐る画面をあてる。
「もしもし」
「……」
相手はすぐに名乗らなかった。
「えっと……」と沈黙に耐えれず私が間をつなぐと、少し掠れた声で「御堂ォ筋ですけどォ」と相手は名乗った。それからまたお互い黙っていて、「あの」と言ってもなにも答えてくれず、返答を待つ。向こう側から「ゴー」「ビュー」と突風の音が聞こえ、だんだん意識がそちらに向き始めていた。
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時