ん、と短くて頷いて ページ43
カーテンをめくり、車も人もいない道路を小さな電柱の明かりが照らす。
「今日のレースの結果が、その、納得できひんみたいで。ひとりでホテルから出て行ってしまってな」
「ひとりで?さっきですか?」
「いや、1時間くらい前や。俺ら、すぐ帰って来ると思ってんけど、全然。それで、いま、みんなで探してるんやけど、連絡すらつかへんくなって。あいつ『自転車部やめる』言うて、ほんで、『京都帰る』って」
「落ち着いてください先輩」
窓に触れ、私は慎重に言葉を選んだ。
「御堂筋くんは戻ってきます、絶対」
「……そうやな」
石垣さんの声は少しだけ小さく、語尾を力強くして答えた。電波が届きにくいのか、「ザザ」というノイズが声に混ざっていた。
「今送ってもらった、この番号にかけてみればいいんですよね?私が電話すると『非通知』で表示されて怪しまれると思いますが」
「……それでも、出てくれるかもしれへん」
ふう、と私の吐く息が窓にかかった。
「確かに、かけてみな……わかりませんよね」
窓に映る自分が、こちらを見ている。自分の顔から目をそらした。窓の向こうに広がる夜景、建ち並ぶ家、一軒一軒にともる灯りに目を細めた。こんな街、こんな家に帰ってもエエことあらへんで。窓に映る自分が笑っているように見えた。
「出てくれるかわからへんけど、私かけてみます」出てくれるわけないけど、と言葉は飲んだ。
「ありがとう。助かる、ホンマにありがとうな。頼むわ」
胸騒ぎがした。私は先輩との通話を終えると、すぐに御堂筋くんの番号に電話をかけた。
電話は繋がったことには繋がったが、御堂筋君が出ることはなかった。
「ピーっという発信音のあとに、お名前とメッセージをどうぞ」
女性の録音声が案内を伝える。
ピーーーーー。
切って、掛け直した。
「ピーっという発信音のあとに、お名前とメッセージをどうぞ」
ピーーーーー。
私は電話を切らなかった。京都の町並みを眺め、窓にもたれかかった。
「えっと、高橋です。……御堂筋くん……今……どこですか?石垣さんが探してて……あの、えっとえっと」
プツッ。
何も言えないまま、自動的に電話が切れた。
スマホが手から滑り落ち、足元の畳に転がった。拾い上げようとして膝を折ると、ゴミ箱が視界に入った。
ゴミ箱に入れた遺書から目が離せなくなった。
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時