ぶらふじゃない描かれた未来 ページ42
私の手は遺書を開いていた。
写真が2枚入っていて、片方は幼い頃の母。片方は死ぬ前のおじいちゃんだ。どちらも完璧な作品だった。
おばあちゃんは人を撮るのがうまかった。
「なんでそんなに綺麗に撮れるん?」と幼い私が尋ねると
「好きな人を撮ると上達するもんや」って言われた。
私もおばあちゃんみたいになりたくて、何度も真似て写真を撮ったのに、まったく思い通りにいかなかった。
私は学校用のカバンから、あの御堂筋くんの映る写真を「遺書」と書かれた封筒に入れた。便箋も丁寧にたたみ直して、いっしょに入れた。
おばあちゃんがなぜ、遺書に写真を添えたのか。理由が少しわかった。過去の1番良い写真を集めて、たまに見返して、幸せの断片を確認して、息をついて、あの頃私頑張ってたなぁ、そう思っていたかったんだ。その成果を、母に見てもらいたかったんだ。かわいそうなおばあちゃん。遺書を読んだのは母じゃなくて私だった。一番見てほしい人に見てもらえないなんて、かわいそう。
私の撮った最高の写真とおばあちゃんの撮った最高の写真を入れた遺書を、ゴミ箱に落とした。未練がなく、むしろ清々しい気持ちになっていた。やっと肩の重荷が取れたような気持ちだ。私は力の抜けた状態で、机に向かい、黙々と数学の宿題に取り掛かった。どんどん計算問題が解ける。最初からこうすればよかったと思った。しばらくしてポケットに入れたスマホが震え、宿題をする手を止めて相手も確認せず電話に出る。「悪い」と突然言われ、私は思わず耳を疑って「はい?」と聞き返した。
石垣さんからの電話だった。
◯◯◯◯◯◯◯◯
「えっと、い、石垣さん?」
「こんな時間にすまん」電話の向こうは石垣さんだった。
「大丈夫ですこちらこそ、人違いで、めっちゃ感じ悪く出てしまってすみません。あの、それより『悪い』って?」
返事を待つが、すぐに返ってこなかった。唾を飲む音。
「すまん」と石垣さんはもう一度謝った。その声は焦っているように聞こえた。
「今から送る電話番号に、電話かけてみてくれへんか」
トーク画面に送られたのは、知らない携帯の番号だった。他人にこんな個人情報送っていいのだろうか?と困惑した。でも、石垣さんの言葉は続けて私を混乱させた。
「御堂筋がおらんくなったんや」
視界がぼやけて、私は口を開けたまま固まった。
「高橋さん?」
我に返って「あ、はい」と声を出す。勉強机から離れ、窓に寄り添った。
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時