じきが来ればじかに触れてた ページ41
「……御堂筋くんはそういうんじゃないです」
私のようやくでた声は、情けないくらい小さくて震えていた。
「そういうんじゃないって、どういういうこと」
疑問符も付けずに部長が言う。
「どういうことと言われても、違うんです」
「はっきり言葉にして、論理的に話してもらってええかな？君が否定した理由を教えてくれる？」
私の言葉は途切れたままだった。部長は鼻をすんと鳴らした。
「あんなやつのどこがええんや。あんなん、ただ自転車が早いだけやろ」
「ただ自転車が早いことの、何がいけないんですか」
そうです部長。自転車が早い、たったそれだけをするのに、どれだけ身を削らないといけないか。学校でたくさんの女の子に手を出して噂になって下級生の私に声をかけた部長に、勉強も部活もスポーツもそれなりに上手くこなせる部長に、試験よりゲームのスコアをたくさん伸ばす部長に、自分を誤魔化している部長に、その苦痛がわかっているというんですか。
「いやいや」
部長は深くため息をついていた。
「論点変わってるで�盒兇気鵝７�まで御堂筋みたいになるなや」
「私なんかが」と言った。
言った瞬間、声より先に、ざーーと雨粒のように目から熱が溢れ出した。思い出した、初めて見たときの御堂筋くんの姿を。桜が突風に吹かれるなかを進む姿が綺麗だった、かっこよかった。自転車が静かにまっすぐ、力強く進む姿に憧れた。羨ましかった。写真を撮って、そんな姿にたくさんの感情がぐちゃぐちゃの大きな塊になって胸に迫ってきた。
「御堂筋くん、みたいに、なれません」
錐(きり)で刺されるように喉が痛んだ。
私はとうてい御堂筋くんには敵わない、と思った。私がどれだけ頑張ろうと、『私は一目惚れをしたときの写真』以上の写真は、もう一生取れない。撮れる気力がない。実力がない。そう思うと涙が止まらなかった。
「ちょ、泣くの？ええ、こっちが悪いみたいやん。泣かんといてよ」
あきらかに狼狽えた声の部長が言葉を走らせる。
「オレの話、覚えてくれるだけでええから」
「はい」
「うん、取り下げる件もオレに言われても困るからな、あとは自分でどうにかしてや、な」
「はい」
「今後は記事だけ書くということで、写真も撮らんでいらん」
「はい」
「もともと写真もそんなに必要ないし、それでええな」
「はい」
「うん、じゃあおやすみ、な、ゆっくり休みな。おやすみ」
そうして一方的に電話を切られ、ツーツーという音が耳の奥まで響いた。
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niko(プロフ) - 続き楽しみです！！ (2021年2月24日 18時) (
レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました！！面白いです！！！応援しています！ (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました！応援しています！次の更新楽しみにしています頑張ってください！ (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます！無理せず頑張ってください！ (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています！ (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：杞憂 | 作成日時：2020年10月9日 22時
