いきおいまかせ石を穿て ページ38
「箱根学園の福富さんと金城さんがゴール争いになってね。全力のスプリント勝負で、最後までどっちが勝つなんてわからなくて。3年間積み上げてきたものがぶつかり合う、二人の真剣勝負の決着をつける、そんな瞬間だったの」
こういうとき、幹ちゃんの話は止まらない。スマホを持つ手が、じいんと熱くなる。
「それでこういうときこそ、マネージャーの腕の見せどころなんだよね」幹ちゃんが呟くのを、私は噛み締めるように「うん、そうやね」と相槌を返した。
「手嶋さんや青八木さん、他のサポーターの方とも話をしてたんだけどね。チームの強さは個人の強さに直結してるから、体調管理だけじゃなくてメンタルケアも慎重にしないとって話してて」
なんとなく天井を見上げると、蛍光灯のまぶしさに目がくらんだ。ぼんやり光を眺めながら「うん」とか「そっか、なるほど」とか幹ちゃんの話に口を動かす。目をつぶれば、まぶたに光の輪郭が残っていた。
「Aちゃん……なにかあった?」
「え?」
「元気ない感じ」
「元気かぁ」私はなんとなくカメラと遺書を見ていた。
「来れなくて……本当に」幹ちゃんの声が途中で途切れて、私はうつむいていた。
気を使って、声を切り替えた幹ちゃんが「そうだ、小野田君と電話、代わろうか」と言って少し時間が空いたけれど、
「ごめんねAちゃん。小野田くん今さっき、買い出しのために薬局へ行っちゃったみたいなの」
と申し訳なさそうに言うので「全然、気にしないで」と電話なのに私は首を振った。
そして話題を変える意味で
「京都伏見はどうでしたか?」と尋ねた。
幹ちゃんもこちらの意図を察してくれたのか、フフフと明るい声で笑って「みんながまとまってる感じがする、強豪だね京都伏見は」
「でしょ」
自分のことのように嬉しくて同じように声を弾ませる。
「御堂筋くん、部長の石垣さんや他の部員はこの日のために練習に打ち込んでたから」
「うん、すごく真剣に向き合ってる人たちだと思った……けど」
「けど?」
「ちょっとだけ、厳しそうで怖かったかな。Aちゃん、気を悪くしたらごめんなさい。私ね、HP(ホームページ)この前言ってたからチェックしたんだけど、そこでも色々言われてて、ますます……」
「HP……?」
「ほら、だってAちゃん、この間京都伏見の学校のHPにも記事が載るって言ってたじゃない?だから……」
「HP、何が書いてたん?」
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時