くやしいな好きでした ページ36
「なんであんなに怒ってるんだろうな」
「寂しいからちゃう」
「えっ?いやどうだろうね、もともと二人ともあんまり仲良さそうに見えなかったし」
「せやね」
私はカレーの残った鍋ごと冷蔵庫に入れて、ダイニングテーブルを拭く。
「父さんさ、しばらくこっちに居ようか?」
父に言われ、私は思わず苦笑いを浮かべた。
「無理やん」背中を向けながら答える。
「母さんだって忙しいし、父さんが土日の間京都へ来て、日曜の夜東京に戻る」
「それこそ絶対に無理や。体が持たへんって、車もないのに」
「親戚の人も、何人か当たってみよう」
「叔母さんもお母さんと仲悪いから」
「そうだな、じゃあ……金だけでも」
「それは嬉しいけど、多分お母さんがお酒で使ってしまうで」
「酒はいつから?」
「さあ。私らが京都に来て、半年ぐらいから段々と。お母さん、最近まではこんなに酷くなかったんやよ。多分、出版の仕事うまくいってるらしいから、その反動で疲れたら呑むんとちゃうかな。すぐ寝れるらしいし」
「そうか」
嫌味らしく「はーあ」とため息がでていた。ハッとして父を見ると、悲しそうな目をした父と目が合った。
「疲れたよな、今日」
「う、うん」
すぐに目をそらして流し台に移る。スポンジに洗剤を染み込ませ、こびりついたカレーの跡をこする。
「疲れたなら休んでていいよ、料理も掃除も介護も父さん手伝うからな」
「うん」
父から背を向けながら皿を洗った。
「お前だけが背負っちゃダメだよ」
「うん」
「東京にいたときみたいに、気晴らしに写真とか自転車とか趣味へ没頭してもいいし」
手が止まった。
気晴らしに、写真とか、自転車とか。
「趣味に?」
「友達もいるだろ、同じ趣味の」
流しっぱなしの蛇口から手が離れる。食器を持つこともできないほど、突然力が抜けていった。
「あのな、A。もし良かったらの話なんだけど」
「明日、燃えるゴミの日やから」
それ以上話す気力が持たなかった。聞こえないふりをしながら、私はお母さんの食べ残したカレーをゴミ箱に捨てた。片手間でキュ、と水を止める。
「せやから私、先に片付けしに行くね」
崩れ落ちそうな疲労を感じて、私はおばあちゃんの部屋に向かった。
部屋について灯りをつけると、見違えるほど何も無かった。なんということでしょう、ほとんどの家具が外へ運び出されている。物は袋詰めされて新聞紙、燃えるゴミ、燃えないゴミ、と分かれ、等間隔で山積まれている。
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時